らんたの小説

存在する民話をライトノベル風に2次創作した小説を公開するサイトです

瓜子姫を討った天邪鬼

序章

「今日がここを襲う村だな」

「おいしそうな人間だこと」

「せかさないでおばあちゃん」

「おまえの蜘蛛の糸で奴らの動きを封じられるかが攻略の鍵」

「分かってる」

そういうと瓜子姫は凍てつくほどの鬼気をまき散らす。顔は凄惨な憎悪にゆがみ肌は紫に染まって行く。つややかな黒髪も毒々しい青紫に変色してうねるように伸び、膨張する己の躰から脚が6本突き破る。

こうして瓜子姫は本性を露わにした。上半身は瓜子姫のままだが下半身は巨大な蜘蛛。

蜘蛛は糸を吐き人間の動きを封じる。

「さて、獲物を食うか」

そういうとおばばが体中めきめきと鳴らしながら本性を現す。角が生え口が裂ける。山姥であった。

糸で身動き取れない村人の悲鳴もかなわず山姥は生きたまま村人の血肉を食う。

「それじゃわしも食事とするか」

そういって爺は服をすべて脱ぐと骨音を響かせながら毛がぞわぞわとはやして行く。耳が頭上から生じ、本来あった耳が埋まって行く。牙を生やし爪が伸びる。狼人であった。

瓜子姫は動けなくなった村人に蜘蛛の喉から出た管を突き刺し生き血を吸う。上半身は人間のままの瓜子姫は嬉しそうに生き血を吸う様を見届ける。

狼男となった爺は蜘蛛の糸で動けなくなった村人をいたぶるように攻撃し、喉を食い破る。

「残りの獲物は繭にして保管してくれ」

「分かってるわよ」

そういって残りの村人を繭にする瓜子姫。繭に毒針を打つ。仮死状態にする毒が獲物に行きわたる。

こうしてこの村は魔界の住人の者となった。

-これは現在の栃木県、下野の国の山岳地帯のお話

 

第一章

繭にした人間の肉と村の畑で取れた野菜やお米で3人は毎日団欒を取る。

普段の3人はまるで人間と見分けがつかない。

しかし、まぎれもなく妖なのだ。

それも人の血肉が大好物の。

実は狼人である爺と山姥であるばあやは迫害され霊峰にひっそり住んでいた。そんな中巨大な瓜が流れて来たのである。瓜を拾って中を開けようとするとそこには赤子が入っていたのであった。

ばあやは赤子に陰の気を注ぎ込む。こうして新しい妖が誕生したのであった。

名前は瓜子姫と名付けた。

瓜子姫は狼人と山姥から様々な戦い方、そして織機を教わった。瓜子姫は巨大な蜘蛛であったため織物の原料に困ることはない。

村を征服しては魔界となる領地を広げて行った。いいや、取り戻して行ったのだ。

しかし、この時3人は見逃していたのであった。

薪を拾いに山に出かけていた若者が村を襲う様を一部始終見届けていたのであった。

若者は見た。自分の妻と子供が食われる様を。余りの恐ろしさに声も上げられずに居た。

若者はようやく自分を取り戻し麓の寺に逃げ込んで和尚に一部始終話した。

 

第二章

若者の名は野十やじゅうといった。

和尚に全て話すと

「そんな事言ったって、城下の者が信じるとは思えぬの」

「そんな……」

「お主、仇を取りたいか」

「……」

「どうなのじゃ?」

「……はい」

「そうか」

「はい」

「ならばここには救いは無い。ただし、この先にある天探女神社に行くとよい。きっと天探女アメノサグメ様が力を与えてくださる。仏の力では無理じゃ」

「そんな……」

「天探女はの、ただの占いの神じゃない。国津神の主神大国主に仕え、大国主と共に国づくりをした天邪鬼で2番目に偉いお方なのじゃ」

「要は、鬼の力を得て、闘うのじゃ」

「そんなことが……」

「これは仏の道を外れる外道の道」

「お主、鬼になる覚悟はあるか?」

「鬼……」

「よく考えてここを出るのじゃ。一晩だけ宿としてここに泊まるが良い。行くと言うのなら呪文が書かれた巻物を与えようぞ」

 

第三章

 

-翌日

「俺、鬼になります。仇討ちます」

「本当に良いのだな」

「はい」

「巻物を渡そうぞ」

「神社は反対側の山にある」

「武運を祈るぞ」

こうして野十は鬼になる決心をした。

険しい山道を歩き、神社にたどり着いた。

神社は誰が来たのかよく整備されていた。

お賽銭をあげ、祈ってから呪文を唱える

すると誰かの声が聞こえてきた

―主は鬼になりたいのか

―本当に神様の声が!!

―私の名はサグメ

―お前は天空と山の守護者天邪鬼になりたいと

―はい!

―何のために?

―妖に村人を殺されました。俺の妻も子も。だから仇を取りたいのです!

―鬼の力を得た時、3日以内にここに戻り解除呪文を唱えないとお前は天邪鬼のままになる

―それに人が鬼になる時激しい苦痛が伴うのだぞ

―お前はそれに耐えられるのか?

―はい

―耐えられずに死ぬ者も居た。それでもよいのか?

―はい

―よかろう。お前に力を与えようぞ

声が止まるとご神体が闇の渦を作りだし、闇色の光が次々野十に突き刺さった

「うがあああ!」

野十は悲鳴を上げた。

 

第四章

 

闇の矢が刺さるたびに激痛が走る。

筋肉は盛り上がり、牙が伸び、皮膚は赤くなり、頭頂から角が生じる。

激しい痛みはやがて湧き上がる力に変わった。

闇の矢が襲ってこなくなった。

―己の姿を水面で見て見よ

その声を聴くとたしかに自分は鬼となっていた。水面には角と牙が映っていた。

―天邪鬼は他人の声をまねることが出来る。ゆえに山彦とも言われる。

―これを

またしても野十の前に闇の渦が生じ闇の渦が消えると黒色の剣と鞘が生じた

―これは

―これは闇討ちの剣。もちろん妖にも利くぞ。

―己が人間に戻りたいと思うのなら今すぐ行くがよい

―ありがとうございます

―お前の名前は何という?

―野十でございます。

―ならば天邪鬼になった時の名を与えよう。お前は今日からエワ。エワと名乗るが良い。

―サグメ様、ありがとうございます

―結果を楽しみにしてるぞ

 

第五章

 

エワは山を駆け下りる。鬼になってからと言うものの人間時代とは比べ物にならないほど脚力が増した。

そして、妖がほろぼした村に着いた。

繭にされた人間は集められている。

まずは狼男からだ。

芝刈りに行った爺が来るのを待つ。

瓜子姫の家となったのは野迫の家であった。乗っ取っているのだ。

ひそめて様子をうかがう。

そして夕方になった時に、爺は来た。

一気に跳躍して切りつける。

が、なんという跳躍力だろう。さっとかわしてしまった。

「お前はここの山の鬼か。縄張りを荒らされたのが悔しいのか。残念だな。ここはわしらのもんじゃよ」

そういうとぞわっと毛が生えて行き衣服は千切れ飛び狼人の本性をどんどん現して行く

剣を構えながらエワはじりじり詰め寄る。

狼男に戻ると両手を振りかざしながら爪を振り下ろす。

かわして剣で切りつけるが届かない。

ーどうすれば!

思わず剣を空で切った。するとなんと見えない刃が樹を切り倒す。

そうか、この剣はそんな魔術が込められているのか。

さっそく何度も狼男に向かって剣を振りかざす。

風の刃が狼男を切り裂く。

動きが鈍った。今だ!!

「たーっ!!」

居合を入れて狼男を一刀両断にした。

狼男は絶命した。

「あと2人!!」

 

第六章

 

エワは山姥を見つけた。

川で洗濯していたようだ。

―街に入る前に始末せねば

風の刃で攻撃する。

「何奴!?」

そのまま跳躍して切り込もうとする。

だがやはり山姥も妖。見事な跳躍で攻撃をかわす。

が、想定していなかった。山姥が呪文を唱えると逆に風の刃がこっちに向かって来る。

即死は免れたが細かい傷が生じた。

「ふふん、ここの山彦かい。さては人の血肉がほしいのかい?」

「違う!」

「果たしてそうかな?」

そう言いながら今度は紅蓮の炎が手から放たれる。

服に燃え移り大地を転がる。

―日没だ。勝てない!!

今度は氷の刃がエワに向かって行く。

かわすのがやっとだ。

民家に逃げた。

そこは繭にされた人間が居た。

「野上!!」

今すぐ助けたい。だが家にも氷の刃が次々突き刺さる。

―いかん、ここは撤退だ。

勝手口から出て一旦村を去った。

天探女神社に戻ると完全に日が暮れていた。

神社に置いた巻物を拾うと神社の社で一晩過ごした。

 

第七章

 

神社でお参りする音が聞こえる。鈴の音で思わず目覚めてしまった。

雑魚寝していたせいで体のあちこちが痛い。

ふっと誰なのか除くと誰も居ない。なのに足音がする。

「誰だ!」

思わず言ってしまった。

「同士よ」

という声がすると蓑を取って姿を露わにした。

なんと同じ天邪鬼ではないか。

「天邪鬼……」

「はは~ん、その様子じゃサグメ様の御力を借りた人間だな。剣が何よりの証」

「おいらの名前はカク。よろしくな」

「お・・・おう」

「なんでお前、天邪鬼になったんだ?」

「実はな……」

「仇討ちか。お前麓の村人だな」

「そうだ……」

「山姥と狼男にやられたか」

「……」

「これ持って行け」

それはカクの隠れ蓑だった。

「貸してやる」

「着込んで水面を見て見ろ」

さっそくエワは水面を見て見た。

「何も映らない」

「文字通り隠れ蓑だからな。己の姿を隠すことが出来る」

「それで山姥を不意打ちにするのよ」

「後ろからぐさっとな」

「そこまで強いのならお前さんが退治してくれよ」

「やれるのならとっくにやってる」

「へっ?」

「この先の山頂の沼地はもともと天邪鬼族のもの。だが山姥に殺され、やむなく逃れたのよ」

「魔術を駆使する山姥は強いぞ」

「……」

「死にに行くようなものだ」

「だから殺すチャンスは不意打ちだけだ」

「ありがとう」

「武運を祈ってるよ」

 

第八章

 

「爺がやられた」

「相手は天邪鬼だ」

「人間の血肉を求めて来たのかしら?あまり天邪鬼って人間を食わないんだけど」

「相手は闇の剣を持っている。気を付けるのじゃ。誰が来てもここを開けてはならぬ。もし奴なら本性現して戦いの準備をせねば」

「わかったわ」

「今のうちに人の肉を食って精を付けないと」

鍋にはぐつぐつと音を立てながら肉が煮たっている

「それと繭で保存した血肉をここに持ってこないとな。長期戦じゃ」

「ええ」

「繭になった者の生存期間はどのくらいじゃ?」

「もって一週間よ」

「あとは死んで腐るだけか」

「ちっ。燻製にでもするか」

「とにかく瓜子姫よ。絶対に扉を開けぬようにな」

「わしの場合、『ここを開けておくれ』といったら『ダメです、ここは誰が来ても開けるなと言われております』と答えろ。『それでも少しだけ開けておくれ』とわしが言ってわしの姿を確認してから開けるのじゃ」

「この合言葉忘れぬなよ」

「はい、婆様」

 

第九章

 

朝になった。

山姥はあたりを警戒しながら繭に包まれた人間を運ぶ

燻製にして食うためだ。

しかし山姥は知らなかった。

己の敵が見えていないことを。

一方カワはこっそり民家に入って漬物などを食べて飢えを凌いだ。

そんな時、カワは山姥が繭に包まれた人間を必死に隣の家に運んでいるのを目撃する

―チャンスだ

刀を抜く

山姥は繭を運んでいるときに両手が使えない。

そして後ろから一気に切りつけた!

悲鳴が木霊する。

しかしカワは首を上げた。悲鳴が止まった。悲鳴の替りに血しぶきが飛ぶ。

―あと1人!!

そして最後の宿敵がいる家の前にやってきた

「ここを開けておくれ」

その声は山姥の声であった。天邪鬼にとって声を真似る事など容易。

「ダメです。誰が来ても開けるなと言われております」

中には織物を織る音がする。

―そうか。敵が来ていることはさすがにばれてるか

―なんて答えればいい?

「ちょっと鎌を忘れてしもうてのお」

適当に答えた。

「あなたはばあやではないわ」

そういうと家の中でめきめき音がする。

―失敗だ

家から数歩引く

そして予想通り無数の蜘蛛の糸が戸を破りカワに襲いかかる

糸の一部が絡まって動きずらい

どうにか糸を切るがどんどん糸を吹き付けられる。

幸い隠れ蓑で相手は自分の姿が見えていない。

しかし、これでは全く勝負にならない。

糸をどうにかとろうとするがなかなか取れない!!

そして信じられない物を見た。

蜘蛛の巣だ。村のあちこちに蜘蛛の巣を作っているのだ。ひっかかったら餌食になる!!

相手の動きを封じるためなのだ。

―いったん引くぞ

残りあと1日しかない。

―どうすればいい!?

 

第十章

 

神社の近くの川で糸を取るエワ。

だが剣に付いた糸も隠れ蓑に付いた糸もなかなか取れない。

当然、これでは剣で切りつけることが出来ない。

「大分苦戦してるようだな」

同族のカクであった。

「あと1日だぞ。どうする」

「どうすると言ったって……」

「解除呪文を唱えるのなら今だぞ」

「……」

「お前、人間に戻れなくなるぞ」

「……」

「それこそなんで人間の俺に力を貸してくれる」

「それは俺も同じ元人間だからだ」

「えっ?」

「俺は天邪鬼の隠れ里で遊んでいた人間の子だった」

「だが、目の前で天邪鬼が次々抹殺されて行った」

「俺だけ転移呪文で遠くに飛ばされた。遠くと言っても6里だが」

「そして例の寺に身を寄せた」

「で、俺も天邪鬼になって仇を討とうとした。だが結果はみじめなもんだったよ」

「そんな事が……」

「で解除呪文を唱えることにした。だがあまりにも遅すぎた」

「ゆえに、今やこの辺の山で天邪鬼最後の生き残りとなった」

「巻物も和尚に返してな」

「和尚はなんて言ったの?」

「『外道であっても仏の道は理解することが出来る。主は仏を守る天邪鬼になれ』と」

「そんな事が……」

「すげえよ。お前仇敵を2人も倒したんだ」

「でも見てわかるだろ。瓜子姫の蜘蛛の糸に武器をやられたら、もう終わりなんだよ」

「まだやれる!!」

そういうと無言で悲しい目になった。

「死にに行くのか……」

「ならば隠れ蓑を返してほしい。それは天邪鬼にとって重要な品」

「……」

 無言でカクに隠れ蓑を返した。姿が露わになった。

「俺は仇を討つ」

「そうか……」

そういうと弓と矢を置いた

「これは?」

「爆発の術を仕込ませた石が先端になってる爆弾矢だ」

「爆発を起こしてひるんだ時に剣を刺せばいい。その剣は切ることが出来なくなっているが突き刺す事ならできる」

「いつも思うが、だったらお前が退治すればいんじゃねーか?」

「残念ながら俺の魔力じゃ小さな爆発を起こすのが精いっぱいだ」

「魔力が強い天邪鬼だと大爆発を起こせるんだけどな」

「だからその爆弾矢では敵をひるませるのがやっとだ」

「……ありがとう」

「武運を祈る」

 

第十一章

 

一方その頃の瓜子姫

「糸をいっぱい吐くには養分が必要じゃからの」

そういうと蜘蛛の口から管のようなものが突出し養分を吸い取る……

次々繭に包まれた人の養分を吸い上げる

そして村中に次々蜘蛛の巣を張って行く

「見えない敵であっても蜘蛛の巣にかかればこちらのもの」

「ふふっ…くくくく」

蜘蛛の巣だらけの村の夜空を見上げ瓜子姫は笑っていた。

そして、瓜子姫は蜘蛛の姿を解くことなくおばばの亡骸を抱え埋めると石を最後に建てた。お墓だ。墓は2つある。祈りを終えると家に戻った。

戸を他の家から持って行き、自分の家にはめて戸を閉め、ここで自分の姿を人間の時の姿に戻す。睡眠も大事なのでいったん人の姿を取って眠ることにした。

こうして夜が明けた。

カワは絶句した。村中に張られた蜘蛛の糸である。

蜘蛛の糸がかかってない場所から民家に入り、火を起こす。蜘蛛の糸を燃やしてみる。するとどうにか消えて行った。

くまなく糸を燃やす。

もう自分は隠れ蓑が無いのだ。いかに動き回れるスペースを作れるかが問題であった。

村にはもう生きているものは瓜子姫以外居なかった。干からびた死体があるだけであった。

どんどん時間がなくなる。

やっとのことで蜘蛛の糸を消すと瓜子姫の前の家に立った。

―ふっ

爆弾岩が鏃になっている爆弾矢を構えた

瓜子姫の家に向かって放つ

爆発音が響き、下半身蜘蛛上半身人間の瓜子姫の姿が露わになった

「もう一発!」

そう言ってもう一回矢を放った。

瓜子姫に見事命中血しぶきが上がる。

「覚悟!!」

そう言って弓を背中に仕舞い刀を抜く!

そして闇の剣を瓜子姫に突き刺した

絶望の声と断末魔が同時に木霊する

そして次に上半身部分の瓜子姫を刺した

致命傷だ。

使い物にならなくなった剣を仕舞い、近くにあった包丁で首を刺す。

瓜子姫は絶命した。上半身の眼も下半身の蜘蛛の眼も静かに目を閉じる

 

最終章

 

エワは急いで戻る。

天探女神社へと!

神社に戻ると社の奥にある巻物を手にし、表に戻ると解除呪文を唱える。

すると内なる声が聞こえてきた。

―出来うる限りやってみる

すると鞘に収まっていた剣が元の黒い煙に戻り、自分の体も黒い煙で渦巻く。

しかし……

―すまぬ、3日過ぎていた者に解除呪文は利かぬ。日を見てよ、日が沈もうとしている

山岳の地の日没は早い。日が沈もうとしていた。

―そなたは今日から天邪鬼として生きるのじゃ

その声を聴くと「うおおおおお!」とエワが泣く……

ー嘆くでない。天邪鬼の人生もまた楽しいぞ

ほれ、友も心配そうに見ておるぞ

「駄目だったか!!」

「そうか……」

「ならば紹介しようぞ。天邪鬼の隠れ里を」

「そんなところがあるのか」

「ああ、この先にある洞窟に転移すれば隣の国上野の国の天邪鬼の里さ」

洞窟に案内されていくと転移魔法を唱えた。その先にある世界はまるで桃源郷であった

長に挨拶し、事のいきさつを説明する。

「そうか、下野の国の天邪鬼は2名となったか」

「再建に尽力を尽くすぞ」

「ありがとうございます」

こうして隣国の国の天邪鬼の隠れ里の援助を受けながら2人は再建する。

もちろん住職にも説明し、巻物を返した

「敵は討ったが人間には戻れなかったか」

「……」

「もう悲しい顔をするでない。寺にも天邪鬼像を置こうと思っての、で、元の村を天邪鬼の里にしようかと考えていたのじゃ」

「本当ですか」

「そなたらは人を守る天邪鬼であろう。これからも人を守ってほしい」

「はい」

こうして村を再建した村は鬼が怒ると書いて鬼怒と名付け、この鬼怒の源流を鬼怒川と人は名付けたのであった

 

 

元伝承・あとがき

 

この作品は鬼怒沼の機織姫と瓜子姫と天邪鬼伝承を足して2で割った創作童話である。奥鬼怒にある鬼怒沼の機織姫を見たものは必ず死ぬという。絶世の美少女だが見たものを糸で縛りつけて殺すという。まさに天空から舞い降りた織姫の暗黒部分の伝承なのである。

実は瓜子姫も織姫であって、山の神である天邪鬼にささげる伝承が残ってるのが東日本、逆に山の神である天邪鬼を成敗するのが西日本である。

瓜子姫と天邪鬼には瓜子姫が悪となる伝承がないが、代わりに鬼怒沼の機織姫伝承を持ってきてさらに創作を加えました。

 

天邪鬼を救った瓜子姫

序章

 

「ねえ、今日も何して遊ぶ?」

「「かくれんぼ」」

「じゃあいつもの大木で」

「あ・・・」

少女が目にしたのはメキの家だった。メキの別名は瓜子姫。瓜畑に捨てられていたんだと。

「あんなやつ放っておこうぜ」

「そうそう、あいつはまるで御貴族様だからな」

その家からはいつも織機の音がする...

「なんてかわいいんだろう」

自分も女の子なのに魅入ってしまう。

「サキ、はやく~」

―これは東北の鬼越村に伝わる不思議なお話


第一章

 

サキは瓜子姫を見つけた。

お寺で文字や計算を習ってるんだと。今帰宅途中だ。

羨ましい。サキは文字がほぼ書けないし読めなかった。

一方の瓜子姫は...

―私は拾われた子だもん、おじいちゃんやおばあちゃんに見捨てられないようにがんばらないと。

それはしんどい顔をしていた。

―羨ましい

野山で遊ぶ子を見ていつも思う。

「羨ましいか?」

「きゃっ!!」

「よっ。俺はサキっていうの。よろしく」

「あなたはいつも遊んでる...」

「そう」

「遊びたい?」

「えっ...いいえ!!」

(だっ、ダメ!これは悪魔の誘惑だわ)

「正直になりなよ...」

にやあと笑うサキ。

「一生籠の鳥で人生終りたい?」

「嫌だ...」(ぼそっ)

「へっへっへっ」

「じゃあ明日、お前のとこに迎えに来るぜ」


第二章


おじいちゃんとおばあちゃんは居ない。

機織りの音にまぎれてそれはやってきた。

「ここをちいと開けんさい」

サキだ!

どうしよう...

だけど...わたし...

少しだけなら...

瓜子姫は戸を少し開けた。

すると凄い力で開けて来る!

「よっ!」

「見つからないようにさ、遊べばいいんだよ」

また悪そうな笑みを浮かべるサキ...

「さっ、行こうぜ!!」

村の子どもたちは少し戸惑った。

キレイな服にきれいな顔。それが瓜子姫だった。

「あ、あの皆さん初めまして」

「やあ、連れてきたぜ新顔」

「大丈夫かよサキ」

「大丈夫だよ。おはじきとか御札で遊べば」

「さっ、やってみ?瓜子姫」

こうして瓜子姫は遊びというものを知ったのであった。


第三章


「瓜子姫やそんなに習字はおなかがすくかね?」

「え・・・ええ」

―まずい。私絶対にまずいことしてるわ・・・

サキはいつも戸を小さく開けてから来る

おかげで瓜子姫は織物の出来が遅いとばれるため、夜でも織物をするようになったのだ。

それだけではなかった。

「はい、これてまり」

「おまえすげえぜ」

手まり歌を歌いながら手まりを浮かべる

蹴鞠と言って蹴りつづけるものまで作った。

「お前、天才だぜ」

瓜子姫は一躍ヒーローになった。

しかし、こんな日は長く続かなかった。

 

第四章


鬼越村で突然鬼穴と呼ばれたところから血のような煙が噴き出した。普段は村人でも絶対に入ってはいけないとされた禁忌の洞窟だ。

村人は咳き込む。

それどころか筋肉は盛り上がり角が出て鬼となる者まで出たのだ。

「なんだこれは!!」

「近寄って来ないで!」

なぜか鬼にならない者もいた。

鬼越神社縁起によると元々ここは鬼が住んでいたという。

それは自分たちのご先祖の事だったのだ。

サキも・・・サキは立派な角が頭から出ていた。

やがて鬼となった村人は開拓地に移住をすることに決める。

このまままでは鬼として人間に抹殺されてしまうからだ。

サキはいつも通り瓜子姫の家の門を叩いてこういった。

「ここを開けておくれ」

開けると、そこには角が出て皮膚の色が赤色となったサキがいた。

「ちょっといいかな?」

「ええ・・・」

こうして近所の柿の木の下でちょこんと座った。

「僕、君が人間のままで居たこと、ある意味ほっとしてるんだ」

「・・・」

「僕の友達・・・全員鬼になった」

「知ってる」

「僕たち、人間に殺されないために移住しないといけないんだ」

「・・・」

「だけど・・・ぼく・・・君の事が・・・」

「え?」

「ううん、忘れて。だっていけない事じゃない。鬼と人間が仲良くなるだけでもいけないのに・・・。まして・・・」

「明日、そっと君のところに行く。そこで・・・もし、僕たちと一緒に暮らせるのなら・・・一緒に暮らしてほしい。僕たちは織物なんて作れない。開拓地を切り開く間は無一文って意味になる。だから・・・僕たちが餓死しないためには君の力が必要なんだ」

「わがままでごめんな!」

泣いて去って行くサキ


第五章


老夫婦は今日も山へ芝刈り、洗濯に行く。

サキは2人が居なくなるのを確認して勇気を出して言った。

「ここを開けておくれ」

瓜子姫はどうするべきか悩んだ。

一緒に行くべきかそうでないほうがいいのか。

だけど、放っておけない。

扉を、いけないと思いながらそっとあける。

「もうちっとあけておくれ」

言われるままに開ける。

すると扉の向こうには...

サキ以外の友達が・・・

「遊ぼうぜ」

「というか文字も教えてくれよな」

それだけでなかった。

「後悔はさせない。瓜子姫はこの地域で一番の長者と結ばれる約束だよな。だったら天邪鬼族の長者と結ばれるようにするぞ」

鬼となった大人たちも居た。

「はいっ」

瓜子姫はこうして1人だけ人間なのに鬼と共に行動した。

天邪鬼となった者が新しく着いたのは岩手の山岳地帯。

ここに森を切り開きながら生活する。

織機は鬼の怪力ですぐ組み立てられて作られた。

もちろん住居も・・・。

瓜子姫はここで先生としても生活するようになった。

織物を売ったおかげで餓死することを阻止出来た。それどころか瓜子姫が作った蹴鞠や手まりは大人気だった。

かつての村ではこう言い伝えられたと言う。

 

―瓜子姫は天邪鬼に家の中に突然入られて喰われた


瓜子姫とサキ達はそんな伝説を笑うかのように今日も一緒に遊んでいた。

瓜子姫とサキ達が住んだ場所は「鬼であることの負い目を超える」という意味で「鬼超」という地名になった。


めでたしめでたし

 

元伝承・解説

 

鬼一口型の瓜子姫伝承を創作童話に変えたものです。元の説話では、

 

いきなり瓜子姫の家に押し入り

 

まな板の上に乗れと言われて従わないと殺すと言われて

 

しぶしぶまな板の上に横になった瓜子姫は裸になれと言われて裸になって

 

そのまま瓜子姫は惨殺されます。

 

特に北東北では瓜子姫に対する扱いは苛烈なものです。

 

瓜子姫伝承はハイヌウェレ型伝承ですが、ここでの天邪鬼は「刈り取る者」(※)という役割を果たします。要は成長して『実がなった』瓜子姫を天邪鬼が刈るのです。そういう意味では東北の鬼一口型天邪鬼は「刈り取る者」となります。

 

実はこの伝承がデマだとしたら?

 

そう思ってこの話を作ったのです。

 

瓜子姫側が天邪鬼を救う話だってありだよねって。

 

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※聖書にも「刈り取る者」が出ますが意味が違います。

 

「まちがってはいけない、神は侮られるようなかたではない。人は自分のまいたものを、刈り取ることになる。すなわち、自分の肉にまく者は、肉から滅びを刈り取り、霊にまく者は、霊から永遠のいのちを刈り取るであろう。わたしたちは、善を行うことに、うみ疲れてはならない。たゆまないでいると、時が来れば刈り取るようになる。」(新約聖書・ガラテヤ人への手紙 6章7~9節・口語訳)

 

しかし、「霊にまく者」が瓜子姫だったら?

だとしたら意味は一緒になります。

 

まあ、家でずーっと居るととんでもない存在(刈り取る者)が来るということがこの民話の警告ですから、それは覚えておいた方がいいです。

 

瓜子姫が行った善行を天邪鬼は刈り取ったのです。

それも瓜子姫の自分の意志で。

そして新しい場所で新しい種を撒くことが出来たのではないでしょうか

瓜子姫を連れて帰った天邪鬼

序章

 

「おい、国造りの場所がくじ引きで決まるんだってさ」

「遠いところは嫌だねえ」

「敵対する天津神らに近い地域も嫌だねえ」

「鬼退治と称して抹殺されるからな」

「おい、ラク、聞いてるのか?」

「うん、ああ」

正直どうでもよかった。川の治水と耕地面積を増やすだけの簡単な仕事なのだから。だいだらぼっちに化ければ簡単なのだ。

ラクがくじを引いたのは出雲から近い播磨の国だった。

隣の隣じゃねーか。いいなあ。

「じゃあ、隠れ蓑来てちょっくら飛んでくるかね」

 

これは播磨の国に伝わる不思議なお話

 

第一章

 

まず現地に着いたら偵察が天邪鬼の仕事だ。

播磨の国をくまなく偵察する。

本当、隠れ蓑ってのは便利な道具だぜ。

 

そんな時興味にかられた家を発見した。

周りは小さな畑しかないのにぽつんと一軒家があったからだ。

 

ー山姥かもしれぬ。気を付けよう

そう、山姥は天邪鬼の呪文を無効化する魔術まで持っている場合がある。

 

そっと家に近寄って見る。

 

するとなんとも可憐な女の子が機織りしていた。

 

瓜畑以外、何もない。

 

夜、改めて偵察すると老夫婦とその子だけの家庭であった。

食事は貧弱で反物を売ってどうにか生計を立てていることが分かった。

爺は山に芝刈り、婆は洗濯に出ていたのだ。幸い、山姥ではなさそうだ。

 

翌日さっそくここを開けておくれと門を叩いた

「ダメです。誰が来てもここを開けるなと言われております」

「そんな事言わずにちいとあけんさい」

瓜子姫はそっと戸を開けた

―鬼!!

瓜子姫は戸をぴしゃっと閉めた

「あなた鬼ね!!」

「そうじゃ。鬼じゃ!」

「私を食べる気なのね!」

「んなわけあるかい!」

「信じられない!」

「じゃあこうしよう。この辺の土地を豊かにしちゃる。そうすればここの扉を開けて話させてもらえんかの?」

「いいわ!だったらこの辺に川でも引いて頂戴。出来るもんなら」

「お安い御用だ」

 

第二章

 

天邪鬼はだいだらぼっちに化けることが出来る。

しかも夜に威力を発揮する。

「みちょれ、瓜子姫」

そういうと印を結び呪文を唱えるとめきめき音を立てながら大きくなった。

「ここの大地は高いの。背伸びが出来るわい」

そういうと山にある岩を砕いた。

次に印を結び呪文を唱えると魔法の縄が登場した。魔法の縄を岩に縛る。

石を引きづりながらどしん、どしんと音を立てながら移動する。

家に居る者は恐れ慄きうずくまった。

山から低地に向かって石を引きずるとやがてそれは川となった。

―橋も掛けると効果的じゃのお

しかし鶏の鳴き声が聞こえる。

―もう朝か。しかたないの

そういうと岩を横に置いて印を結び元の天邪鬼の姿に戻った。

「付かれたの、昼寝でもするか」

そう言ってねぐらとした洞窟に帰ると昼寝した。

再び夜になる。

印を結び呪文を唱えまたもだいだらぼっちになる。

「今度は山に段差を付けるんじゃ」

そういうと手で凸凹な大地を平らにしていく。

こうして棚田が出来上がって行った。

印を結び天邪鬼の姿に戻るとねぐらに帰った。

翌日、村の者は大騒ぎになった。

荒れ地に水と棚田が出来ていたのである。

大喜びする村人の声がする。

「じゃあ、報酬を取りに行くかの」

そういうって再び瓜子姫の家の戸を開ける

「姫、約束忘れたか。ここを開けておくれ」

姫は戸を開けた

「どうじゃ、この辺一帯を豊かにしたぞ。しかも川だけじゃね。棚田まで作ったぞ」

「私の負けだわ」

それを聞くと突然瓜子姫を背負った。

「何するの!!」

「まあそういうなって」

そういって二の腕で瓜子姫を抱えながら飛翔した。

 

最終章

 

瓜子姫が連れてこられた場所は天空の宮殿であった。

「この者に上等の着物と食事を」

「かしこまりました」

「では、姫、こちらへ」

兵士と思われる者に宮殿を案内される。

「しばらくしてから歓談しようではないか」

「もっともあんな貧乏なとこで会話するとは言ってないがの」

姫はおろおろするばかりだった。

言われるままに着物を着て歓談の席に座る。

「まあ、そこに座りなさい」

そこに居た天邪鬼はまるで別人と見紛うばかりの端麗な鬼であった。上等な着物を着ている。

「改めてご挨拶を。我の名は天邪鬼のラク大国主様に播磨の国の国づくりを任された鬼よ」

「えっ?」

「もし、我と結ぶのなら上等の食事、上等の着物、そして天空の暮らしが出来る。悪い話ではなかろう?」

瓜子姫はそれを聞くとわなわなと震え、茶をラクにぶちまけた

「バカにしないで!」

「会ってすぐに婚姻を結べだって?上等な生活?誰がそんなもんのぞんだんじゃい!」

「段階もふまず、碌に会話もせずカネと権力だけで婚姻を迫る男なんてたとえ人間でも結構です!」

「上等じゃのお?このじゃじゃ馬」

「だれかこいつを捕まえろ!」

しかし瓜子姫は逃げて行った。

ここは天空。逃げ場など無いように思われた。しかし瓜子姫はしっかり見ていた。

「あれが隠れ蓑ね」

隠れ蓑を着込むと急いで天空から飛び降りた。

死ぬ覚悟だった。

だが、すう~っと天空を飛び下りて行った。

やがていつもの村々に降り立った。

家に隠れ蓑を置くと姫は素早く逃げた。

 

ラクが瓜子姫の家に行くと老夫婦が嘆き悲しんでいた。

姫は居ない。あるのは蓑だけだ。

「とりあえず、蓑は返してもらうけえの?」

「ひっ!」

 

こうしてラクは瓜子姫を取り逃がしてしまった。

 

この噂は瞬く間に天界に広がり、ラクは人間の女に振られた男として生涯伝説になってしまったという

 

6つの太陽を退治した天邪鬼

むかーしむかし吉備の国で突如太陽が7つも出たことがあった

 人々はあまりの暑さに耐えられず、次々倒れてしまった

 村人は恐れおののきとうとう毘沙門堂毘沙門天様に祈ったそうじゃ

 すると...突然声が響き

 ―我は夜叉の王。我の力は強すぎる。しかし部下を遣わせようぞ

 そういうと毘沙門天像の下の邪鬼が輝いたかと思うと突然

 「よいしょ」

 と言いながら動くではないか。

 「おまえらが毘沙門天様にお願いした連中か。俺は天邪鬼のカラだ。よろしくな!」

 「ひっ!鬼!!」

 「そんな事言うと、頼まれた仕事やらないぞ。で、太陽が突然7つになったって?」

 「そうでございます」

 「はは~ん、それは東国の武蔵の国でもあったぜ。それは八咫烏の仕業だ」

 「八咫烏様ですと!」

 「信じられない。太陽の化身がなんで!?」

 「まあ、見てなって」

 そういうとカラは印を結びながら呪文を唱えた。すると突然空から黒い煙が恐縮しやがて渦巻いたのじゃ

 渦巻く煙は7本の矢と弓になった。その弓矢は禍々しい闇の色をしていた

 「見てなって」

 そういうと寺を出て近所の松の大木の切株に上る。そして弓を構えたのじゃ!

 なんと弓を構えるとどんどん太陽が村に迫ってくる!!

 カラは平然と太陽に向けて矢を放った

 なんと太陽がもがき苦しみとうとう鴉となって大地に落ちて行った

 次々と残り5つの鴉を討ち落とし太陽は元の1つに戻った

大地に落ちた鴉は全て3本足の鴉であった

 「な?本物の太陽は矢を向けても迫って来ないだろ?」

 「じゃ、そういうことで」

 そういうと天邪鬼は元の毘沙門天像の下に戻ると踏まれる姿の邪鬼像に戻った

 毘沙門天像の傍には弓と1本だけ残った矢と筒が置かれていた

 村人は呆然としながら

 「あ・・・ありがとうございますだ!!」

 「ありがとうございますだ」

 こうして村人は毎日のように毘沙門天像と天邪鬼像と弓矢にお供えするようになったとさ

 また不思議なことになぜか天邪鬼が腰かけた松の切株から芽が出なくなったとさ

 めでたし めでたし

 

 

元伝承

『昔太陽が7つ出ていたが、あまんじゃくが松の切株に腰掛けて6つ打ち落としたため、松の切株から芽が出なくなった。』土井卓治「岡山民俗」通巻136号、1980年、pp6-7.より。

元伝承に毘沙門天は出て来ません。そこは創作です。毘沙門天はインドではクベーラと呼ばれ夜叉族の王です。8大夜叉大将を始め多数の夜叉を従えております。毘沙門天像は普通邪鬼を踏んでいますが表向きは病魔を鎮める姿とされておりますが実は毘沙門天の部下です。邪鬼=天邪鬼でかまいません。

偽物の太陽が迫ってくるという設定は埼玉県の射留魔伝説に基づき、岡山伝承ではございません。

双六で遊んだ天邪鬼

 

序章

 

飛騨国の天邪鬼のトレ王がいつもの席に座る。椅子も石で出来たものだ。目の前には平らな石が置かれている。と、その時月光が刺した。やがて人影が降りてくる。

「やれやれ、お前も飽きないな」

「すまんな、天界は窮屈なもんでな」

「ちゃんと遊戯のお代はいただくぞ」

「トレよ分かってる、雷の魔石2つだ」

そういうとトレは雷の魔石1つを平らな石の横の差込口に入れる。するとぱっと光ったかと思うとマス目が出現した。

「ソーマよ、今日は何を賭ける?」

「私が負けたら月の魔石をそなたに」

「お前は月の神だからな・・・。いくらでも月の魔石が手に入るからな」

「そういうな。呪を唱える時に力が上がるぜ、トレ」

「俺は民が地底世界から採掘させた夜の石だな」

「それそれ、いつもの」

「遊戯は何をする。模擬戦か?それとも碁か?それとも人生模擬遊戯かな?」

「天界で戦は無いからな。模擬戦で勝負だ」

「やれやれ、これが月の神だとというのだからな」

「そういうなよ。飛騨の天邪鬼国を月光でもっと豊かにしてやるぜ」

「さあ、戦闘開始だ」

トレが言うとまるで幻のような透明な武者たちが次々現れ、城に川、柵に呪術隊まで現れる

「今度は負けんぞ」

そういうとソーマはサイコロを振る。5が出た。すると+5の表示が出る。

私も振るとするか

トレが出した数字は3.幻の兵士たちから+3の数字が出る。

「もっともこの遊戯は己の呪力次第だがな。サイコロなんて誤差にすぎぬ。」

「ふふふ、その誤差を甘く見るなよ」

これは岐阜県高山市双六という地名の由来にもなった不思議なお話

 

 

第一章

 

 「しっかしさあ、敵の王と将棋指す神様って珍しいよな」

「それは褒め言葉として受け止めておくよ」

駒を刺す音が木霊した。

「俺たちは天界から追放された鬼、天邪鬼なんだぜ?」

「分かってるよ。でもちゃっかり毘沙門天様に仕える天の使いでもあるだろ」

「まあな」

「なにげに俺はおまえらと敵対している天照とは対立してるんだぜ」

「知ってるよ。だからこうして付き合ってるんだろ、ソーマ。いや・・・別名ツクヨミ

駒を刺す音が木霊した。

「もし、これらのゲームを天照の支配地域に普及させたらすげえおもしれえことになりそうだな」

「ああ、鬼を迫害するといったバカな行為が減って遊戯に興じるだろうな」

「だが、雷の魔石は貴重品だ」

「分かってる。だから月の魔石をこちらも用意しよう」

「それで天界の勢力の力をそぐことが出来るってもんだ」

「お主も悪よの」

駒を刺す音が木霊した。

「それとおまえさんの力を高めるために月読神社を飛騨国に作らせるとするよ」

「ありがたい。芦原瑞穂の国に俺を祭る神社は少ないからな」

「いいってことよ」

「王手」

「ソーマ、これは厳しいなあ」

「雷の魔石は頂くとするか」

「お互い、うまくやれよ」

「ああ、親友よ」

そういうとソーマは天空に上って行った。

 

第二章

 

こうしてひそかにトレ王の手で遊戯板が作られて行った。遊戯板と言っても石で出来たものである。それを1つづつソーマが運び出す。天界は一大遊戯ブームとなった。果ては賭け事まで行われるようになった。

―しめしめ

こうして天界の力を、厳密に言えば太陽神天照に着く側の力をそぐことに成功した。

しかしさすがそこは天照。すぐに遊戯板の回収を行い、特に中毒に陥った者を下界に転生させることにしたのだ。下界に転生した者は瓜から赤子が次々と生まれたと言う。ゆえに飛騨には「瓜子姫と天邪鬼」伝承が多く発生した。瓜子姫を殺すことに成功した天邪鬼も居れば人間に逆襲され殺された天邪鬼も居る。

 

トレ王はいつもの場所でソーマを待っていた。やがて下界から影が降りてきた。

「お前が元凶の天邪鬼の王か」

刃物のような声で言い放ったのは天界の兵士!

とりゃーっ!

言うないなや遊戯版ちなっている巨大な石を吹き飛ばした。

「ちっ!ばれたか」

トレ王は隠れ蓑を着こみすぐに飛び去った。

こうして飛ばした石が落ちた場所を双六石と呼ばれ、この辺一帯を双六という地名になった。

天界の勢力によって事実を書き換えられ双六で不正をした天邪鬼に怒って相手が石を蹴ったという話に切り替えられた。

最も月神ソーマは月の神という重責に着く神だけあって御咎めは泣く、またトレ王にもこれ以上天界から迫害が来ることは無かったと言う。

 

元伝承

 

『双六の岩波橋の傍らに盤の石がある。この石の西にある山で昔天の邪気あまのじゃきが小葉石を双六の盤としていたが、負けたほうが怒って盤を投げ、山麓に落ちた盤が盤の石となり、川に落ちたのが賽の淵となった。双六の名称の起源であろう。 』林 魁一「民族学研究」『日本民族学会』8(3)1943.より。

しかし、双六岳の伝承は違います。神代に中秋の名月の晩に限って月神様が月神の家族とともに里へ降りて、碁を打ったり双六をして遊んだが、これを天邪鬼がいまいましく思い、鳥の鳴き声で朝と思わせて月の神を誤魔化して天界に差って、さて自分たちが遊ぼうとしたが板が動かせず、サイコロを振ったらサイコロは落ちたというのです。それが賽ヶ淵と言います。

今回この2つの伝承を足して2で割り、さらに瓜子姫伝承をさりげなく混ぜることにしました。

伊豆七島を作った天邪鬼

 

序章

 

 ここは天界。大国主は領土である芦原瑞穂の国の様子を見て危惧していた。そこで部下の天邪鬼カンテを呼びつけて、芦原瑞穂の国を守ることにしたのだ。

 「これ、カンテよ。聞いておるか」

 「はい、大国主様。何でございましょう」

 「我が国の最高峰の富士が爆発寸前なのじゃ」

 「えっ!?」

 「そこでだ。おまえはだいだらぼっちにもなれる天邪鬼じゃろう。いつも通り国造りをしてほしいのだ」

 「え~っ。また~!?」

 「そう嫌がるでない。今度は島1つを天邪鬼の領土にするご褒美付じゃ」

 「本当ですか!?」

 「爆発寸前の富士の火口の岩を大洋に落とし、その島の1つを天邪鬼のものにしていい。しかもお前はそこの長になるのじゃ」

 「やります、やります。その仕事やります!!」

 「しかもと富士の火口とマグマを7つの島につなげていわゆるガス抜きをすることが条件じゃ」

 「簡単だぜ!」

 「頼んだぞ」

 -これは静岡県小山町や神奈川県山北町、神奈川県箱根町、東京都青島に伝わる不思議なお話。

 

第一章

 

 カンテはさっそく地上に降りて呪を唱える。するとめきめきと音を立てながら巨大なだいだいらぼっちになった。天邪鬼は天邪鬼の血肉を食うことでだいだいらぼっちになれる。カンテは戦で敗れた同族の血肉を食べてだいだらぼっちになり、だいだいらぼっちの力を使って芦原瑞穂の国を作っているのだ。夜に力を最大限発揮できるのでだいだらぼっちになるのはいつも夜と決まっていた。

 巨大な手で富士の火口を削る。だいだいらぼっちになれば火山の熱などなんともない。削った山は遠くに投げた。最初の島がこうしてできた。はじめの島と名付けた島は後に初島と呼ばれることとなる。カンテは箱根を根城にしている。いつも見るのは箱根の光景。

 美しい。だが自分の根城の山を尻に向け富士山ばかり見る人間にだんだん嫉妬してしまった。

―少しでも富士の山を低くしちゃえ

 こうして毎日のようにカンテは富士の火口を削っては遠くに投げ島を作った。島は7つになった。まだまだ仕事はこれからだぜ。

 そう、7つの島と富士の火口を繋げるという大仕事が残っているのであった。

 

第二章

 

 カンテはだいだらぼっちの姿で富士から7つに向かって呪を唱えた。すると地中深くのマグマの流れを7つの島に連結した。小さな破片が箱根に2つ落ちる。後の二子山と呼ばれる山がこうして出来た。

 ―はあああああ!

 カンテの呪力がさらに増した。

 すると・・・。

 7つの島の頂点から次々噴火した。こうして富士のマグマがたまって爆発する事を防いだ。

 -へっへっへ。うまくいったぜ。

 体が崩れ落ちる。

 そのままだいだらぼっちの姿から元の天邪鬼の姿に戻った。力を使い果たしてしまった。

 大国主はカンテの姿を見つけるとすぐに地上に戻りカンテを抱えたまま天界に連れ戻した。

 カンテが目覚めたときは天界に居る時の居城のベッドの上だった。

 ―おいら、しくじったな・・・。

 「目覚めたぞ、勇者が!!」

 「まだ無理をなさらずにカンテ様」

 意識がはっきりしてから、王宮に報告する。大国主はこの結果に満足であった。

 「約束のご褒美じゃ。どこの島をそなたの領土にするかの?」

 「よく考えてから明日私に報告するのだ」

 カンテは自分が鬼が島の王になることに実感が持てないまま床に就いた。

 翌日カンテは王宮に向かい大国主に青島を領土にすることを願い出た。理由は断崖絶壁の天然の要塞だからである。結界を張ることも容易だった。こうしてカンテは箱根の拠点を捨てて青島を鬼が島とし、拠点とした。カンテは地下から取れる魔石特に雷の魔石で電化し天邪鬼らの生活が困らないようにした。天界同様の居住性を確保したことをきっかけに次々天界に居た天邪鬼が鬼が島に移住した。もうひとつカンテは魔石をちりばめた隠れ蓑を作った。この隠れ蓑を着ると姿を隠すことが出来る。カンテは富士の山を削って箱根の山より低くするという夢はかなわなかったが鬼が島の王になるという夢はかなえた。そしてこの島から次々天邪鬼が旅立ち、鬼が島を作り上げていった。青島は天邪鬼に撮って故郷に等しくそして魔石などを買う一大貿易拠点になった。

 そんなカンテは大国主が天界の別の神に戦いもせずに敗北したという知らせを受け、あまりのショックで倒れそのままこの世を去った。カンテの墓は青島に立てられた。

 天邪鬼らは大国主という王を失い途方に暮れる。やがて天津神らに迫害されながらも天邪鬼らは必死に生きていく事になるがそれはまた別のお話である。二子山の天邪鬼伝承は誤った形で伝えられたが遠くの秋田の鬼の根城とされた山で文書が見つかり、民話はこうして書き換えられたのである。

 終

 

元伝承

箱根の二子山の天邪鬼伝承に基づく

信州下條の天邪鬼

 

序章

 

 両親は唖然としていた・・・。自分たちの産まれたばかりの子の姿を・・・。小さきものだが頭頂に生えているものは角である。間違いない。鬼だ!!

 もしかしたら遠い祖先に鬼と交わった者が居るのかもしれぬ。村の者たちは相談した。この子をどうするべきか・・・。その時「ここを開けておくれ」という声がした。村の者たちは何だろうと思い開けると、そこには鬼たちが居た。

 「我々と人間の血を引く子が産まれたと聞く。だから祝いに来た」

 手には金品が。

 「ただし、その子を害したら、我々はお前らを殺す」

 村の者たちはそれを聞くと怯え、震えた。

 「はい、もちろんです。大切に育てます」

 「して、その子の名前は?」

 「天竜です。天邪鬼の天竜

―これは南信州下條の小松原に伝わる悲しいお話。

 

第一章

 

 天竜は病気1つせずにすくすくと育った。頭頂には角があるものの小さく頭髪で隠れてしまうためほかの子と区別が出来ない。不思議な子で獣と会話することも出来る。たまに両親の言うことと反対の事ばかりやってはいたずらをする。両親はそんな天竜を見て呆れながらも大切に育てた。

 天竜は8歳になっていた。この時村では日照りが続き、農作物が全滅した。そこで飯田に居るという祈祷師に雨乞いを頼んだところこんな答えが帰って来た。「小松原に天竜という天邪鬼が居る。その子を阿知川に連れて行き『雨よ、降れ』と天に向かって3度唱えさせよ」

 村人は困り果てた。天竜は反対の事ばかりする子である。それを聞くと祈祷師は「天竜が素直に聞かなかったら『雨降らねえぞお、雨降らねえぞお』とささやいてみろ」と言った。

 翌日阿知川にむりやり天竜を連れていった。当然天竜はいい気もせず全くいう事を聞かなかった。そこで村人は「雨降らねえぞお、雨降らねえぞお」と天竜の横でささやいてみた。すると天竜は「雨降れ、雨降れ!」と天に向かって叫んだ。その時天竜の角から光が生じその光が天に向かった。するとどんどん雲が集まりやがて雨となった。

 

第二章

 

 天竜が振らせた雨はあまりのさすまじい豪雨となった。村人は天竜を置いて逃げ出す。

「待て!」

しかし、天竜の足では追いつけない。あげくにずっこけた。泥だらけだ。

天竜は仕方なく村へ戻り、自分の家に戻ると・・・

 濁流が天竜を襲った。こうして天竜は濁流に飲み込まれ、壊れた家の木が躰に突き刺さり、死んだ。この一部始終を天邪鬼らは水晶の珠で目撃した。

 豪雨でめちゃくちゃになった村に瓜を載せた箱が流れてきた。中には子供がいた。

 「天竜の替わりじゃ!」

 「神様ありがたや」

 この光景を見て、天邪鬼らはさらに激怒した。

 「その子を生贄としよう」

 長の意見に天邪鬼一同は賛成した。

 天邪鬼らは山彦で人を驚かしたりするが、この山彦の呪力を最大限使って山津波を引き起こした。こうして生き残った村人は生き埋めになって死んだ。ただし、瓜子姫の居る家だけは呪力で守った。

 「お前たちは生贄だからな」

 「地獄を見せてやる。」

 生き残った村人も次々天邪鬼らによって暗殺された。

 瓜子姫はすくすくと育ち8歳となった。そして天竜の命日の日がやって来た。

 「ここをあけておくれ」

 声がするので開けて見ると家の周りには天邪鬼らに囲まれていた。

「我々は『その子を害したら、我々はお前らを殺す』と言ったはずだ。約束通りわが一族天竜を殺したお前たちにはこれから生贄になってもらう。おまえら、こいつらを殺せ。」

 こうして3人は殺された。3人の死体は天邪鬼の村でさらに小刻みに刻まれ、天邪鬼らは人間の血肉を堪能した。

 人間が誰も居なくなった下條村を好機とばかりに天邪鬼は根城にした。さらに天邪鬼らは犠牲となった天竜を偲ぶべく天竜銅像が建てられた。後に天邪鬼らは人間と交わり、今ではほとんど天邪鬼の血は残っておらず人間の里となったという。

 

 

元伝承

 

信州下條の天邪鬼伝承による。『雨乞いのためにあまのじゃくを利用することにした。捕まえて、かわらに引っぱってきて、農民が雨がふらんというと、すぐに雨が降ると言った。農民に反対したあまのじゃくの言葉の後すぐに大雨になった。』「下条村の伝説」『伊那史学会』19巻2号(通号513号)より。