らんたの小説

存在する民話をライトノベル風に2次創作した小説を公開するサイトです

信州下條の天邪鬼

 

序章

 

 両親は唖然としていた・・・。自分たちの産まれたばかりの子の姿を・・・。小さきものだが頭頂に生えているものは角である。間違いない。鬼だ!!

 もしかしたら遠い祖先に鬼と交わった者が居るのかもしれぬ。村の者たちは相談した。この子をどうするべきか・・・。その時「ここを開けておくれ」という声がした。村の者たちは何だろうと思い開けると、そこには鬼たちが居た。

 「我々と人間の血を引く子が産まれたと聞く。だから祝いに来た」

 手には金品が。

 「ただし、その子を害したら、我々はお前らを殺す」

 村の者たちはそれを聞くと怯え、震えた。

 「はい、もちろんです。大切に育てます」

 「して、その子の名前は?」

 「天竜です。天邪鬼の天竜

―これは南信州下條の小松原に伝わる悲しいお話。

 

第一章

 

 天竜は病気1つせずにすくすくと育った。頭頂には角があるものの小さく頭髪で隠れてしまうためほかの子と区別が出来ない。不思議な子で獣と会話することも出来る。たまに両親の言うことと反対の事ばかりやってはいたずらをする。両親はそんな天竜を見て呆れながらも大切に育てた。

 天竜は8歳になっていた。この時村では日照りが続き、農作物が全滅した。そこで飯田に居るという祈祷師に雨乞いを頼んだところこんな答えが帰って来た。「小松原に天竜という天邪鬼が居る。その子を阿知川に連れて行き『雨よ、降れ』と天に向かって3度唱えさせよ」

 村人は困り果てた。天竜は反対の事ばかりする子である。それを聞くと祈祷師は「天竜が素直に聞かなかったら『雨降らねえぞお、雨降らねえぞお』とささやいてみろ」と言った。

 翌日阿知川にむりやり天竜を連れていった。当然天竜はいい気もせず全くいう事を聞かなかった。そこで村人は「雨降らねえぞお、雨降らねえぞお」と天竜の横でささやいてみた。すると天竜は「雨降れ、雨降れ!」と天に向かって叫んだ。その時天竜の角から光が生じその光が天に向かった。するとどんどん雲が集まりやがて雨となった。

 

第二章

 

 天竜が振らせた雨はあまりのさすまじい豪雨となった。村人は天竜を置いて逃げ出す。

「待て!」

しかし、天竜の足では追いつけない。あげくにずっこけた。泥だらけだ。

天竜は仕方なく村へ戻り、自分の家に戻ると・・・

 濁流が天竜を襲った。こうして天竜は濁流に飲み込まれ、壊れた家の木が躰に突き刺さり、死んだ。この一部始終を天邪鬼らは水晶の珠で目撃した。

 豪雨でめちゃくちゃになった村に瓜を載せた箱が流れてきた。中には子供がいた。

 「天竜の替わりじゃ!」

 「神様ありがたや」

 この光景を見て、天邪鬼らはさらに激怒した。

 「その子を生贄としよう」

 長の意見に天邪鬼一同は賛成した。

 天邪鬼らは山彦で人を驚かしたりするが、この山彦の呪力を最大限使って山津波を引き起こした。こうして生き残った村人は生き埋めになって死んだ。ただし、瓜子姫の居る家だけは呪力で守った。

 「お前たちは生贄だからな」

 「地獄を見せてやる。」

 生き残った村人も次々天邪鬼らによって暗殺された。

 瓜子姫はすくすくと育ち8歳となった。そして天竜の命日の日がやって来た。

 「ここをあけておくれ」

 声がするので開けて見ると家の周りには天邪鬼らに囲まれていた。

「我々は『その子を害したら、我々はお前らを殺す』と言ったはずだ。約束通りわが一族天竜を殺したお前たちにはこれから生贄になってもらう。おまえら、こいつらを殺せ。」

 こうして3人は殺された。3人の死体は天邪鬼の村でさらに小刻みに刻まれ、天邪鬼らは人間の血肉を堪能した。

 人間が誰も居なくなった下條村を好機とばかりに天邪鬼は根城にした。さらに天邪鬼らは犠牲となった天竜を偲ぶべく天竜銅像が建てられた。後に天邪鬼らは人間と交わり、今ではほとんど天邪鬼の血は残っておらず人間の里となったという。

 

 

元伝承

 

信州下條の天邪鬼伝承による。『雨乞いのためにあまのじゃくを利用することにした。捕まえて、かわらに引っぱってきて、農民が雨がふらんというと、すぐに雨が降ると言った。農民に反対したあまのじゃくの言葉の後すぐに大雨になった。』「下条村の伝説」『伊那史学会』19巻2号(通号513号)より。

先妻と後妻と瓜子姫

 

序章

 

 男鹿半島のある河口に瓜を載せた箱が流れ着いた。漁師がそれを見つけると箱の中に瓜が入っていた。漁師は病気でわが子を失っていたため天からの授かりものと思い、この子を育てる事とした。名は瓜子姫と名付けた。3人は幸せに暮らした。当時の男鹿半島は夜叉鬼が建国した鬼族の国であった。鬼たちは人間を守るのも仕事。そっと見守ってやることにした。そんな鬼たちの中で1人だけ違う行動に出た鬼が居た。天邪鬼のリンだった。リンは漁師の兵衛に恋をした。いつも隠れ蓑で空から偵察していたリンは空から兵衛を見ているうちに恋に落ちてしまったのであった。漁師の兵衛に姿を見せ、「生簀(いけす)」の作り方まで教えたのだ。生簀のおかげで安定した漁を営むことが出来た兵衛はとうとう妻のから子と離婚し、リンと結ばれることとなった。先妻となったから子は生簀の半分をもらい生計を立てる事となった。これは秋田に伝わる悲しいお話。

 

第一章

 

リンと兵衛の間に子供が生まれた。子の名前はコンと名付けた。人間と鬼とのハーフだ。から子と分かれた兵衛だがコンと瓜子姫は仲良くなった。2人とも漁に使う網や織物が大の得意。それだけでなく近所のお寺で文字も覚えた。男鹿の鬼王であるトンは夜叉鬼の後継者である。人間と共に国を作った夜叉鬼は最後は坂田田村麻呂に討伐されるも善政を敷いたことから再び鬼と人間が共存する王国を再建する事に成功した。そんな人間と鬼が共存する国。トン王は男鹿半島で生簀の網を作る事が得意で器量のある瓜子姫を嫁にしたいと考えていた。漁業で国の力を強くしたいと考えたのだ。親であるから子に伝えた。トン王は人間との間に子供を設けたかったのだ。しかし人の血ならコンも受け継いでいる。納得いかないと兵衛はトン王に伝えた。そこでトン王は2人に裁縫競争で勝った者を妻とすることを伝えた。2人とも必死に競争し、結果瓜子姫が競争に勝った。

トン王は「やはり我の見る目に間違いは無かった」と得意気だった。しかしリンはこの結果に納得がいかなかった。

―くそっ!こうなったら瓜子姫を殺してやる。そうさ、事故死にみせかけるのさ。

瓜子姫はいつもの通り生簀の上に立ってえさをやったり、魚を取ったりした。その先にあるのは萩の橋だった。瓜子姫の体重では萩の橋が割れてとうとう瓜子姫は生簀に転落してしまった。リンは魔法を瓜子姫に浴びせる。瓜子姫を凍らせたのだ。こうして瓜子姫は氷の重みよって沈み生簀の中でおぼれ死んだ。当然、このことはすぐにばれた。どう考えても事故死じゃない。兵衛は決断した。

―リンを殺す

 

第二章

 

 夫の兵衛は生簀の途中に萩の橋を架けた。手にするのは魔鏡。鬼の力を無効するという鏡であった。万が一リンが悪さをする時に使うためにとっておいたものだ。リンが萩の橋にかかった時に生簀から落ちた。

―今だ!

兵衛は溺れているリンに鏡の光を浴びさせた。断末魔が木霊する。やがてリンは力を失い、溺れて死んだ。

―これでいいんだ・・・これで・・・これで瓜子姫の敵は取ったぞ。

 溺死体となったリンを網で拾い、墓に埋める。こうして兵衛と天邪鬼のコンが残った。

 コンは事の顛末を知っていた。

 ―母の敵を討つ・・・

 コンは以来短刀を忍ばせながら機会をうかがっていた。

 「こっち手伝って」

生簀の保守の作業中に兵衛がコンに言う。

 ―今だ

 「とーちゃん!」

 父に向ってぶつかった。紅い染みが兵衛の腹に広がる。

「コン・・・なぜ・・・」

「母の敵!!」

コンは父に何度も刺し最後は生簀に落とした。

「魚の餌になればいい」

コンは以来から子、瓜子姫の墓を大切に守った。

この話を聞き、不憫に思ったトン王は天邪鬼のコンを登用し、重鎮にしたという。

 

 

 

元伝承

 

 男鹿半島に伝わる昔話である。先妻のウルスメンコと後妻の子の天邪鬼が居た。ある日、ウルスメンコを嫁にしたいと男がもらいに来たが、後妻は子である天邪鬼を嫁にやりたいと考えて居た。裁縫の競争を2人はさせられ、ウルスメンコが勝った。ウルスメンコは嫁に行くことになったが後妻は生簀に萩の橋を架けてウルスメンコ殺してしまう。それを知った夫は同じように後妻を生簀に落とし、殺したという。このように元伝承では夫と天邪鬼が生き残るという大変珍しい伝承である。同時に「先妻・後妻伝承」と「瓜子姫伝承」が混ざった大変珍しい伝承である。本作品はこの結末に納得できないであろう読者の為に夫もかたき討ちによって死なせることにした。

十字と瓜子姫と天邪鬼

序章

 

 偵察中の里の家で天邪鬼の女の子が信じられない光景を目撃する。隠れ蓑を着ているので姿は見えない。こっそり戸を開ける。

 「せっかく拾ってやったくせに邪教なんかにかぶれやがって!」

 娘の悲鳴と怒号が聞こえる。

 ―邪教

 「お前なんか織物売れなかったら即もう一回瓜畑に捨てるぞ」

 「彦助父さま、お願いです。それだけは」

 「それとこの辺最近邪教徒だけでなく鬼もいるから気を付けろ。不用心な娘だね。」

 「はい、富おばさま」

 戸が閉まる音がする。翌日天邪鬼の女の子は「戸をあけておくれと」言った。

 「ダメです。悪い鬼がいるかもしれないから戸を開けるなと言われています」

 「せっかく『邪教』の集会に君を連れて行こうと思ったんだけどな」

 それを聞くと「本当?」と聞いてしまった。

「行きたいでしょ?」

戸をそっと開ける鬼。指の色から赤鬼だと分かる。

そして誘惑に負けてしまった。瓜子姫は戸を開ける。

「私の名前は瓜子姫よ」

「こんにちは、僕は天邪鬼のラン。」

「君をこの隠れ蓑を着せてこっそり邪教徒とやらの集会まで行かせてあげる」

 そういうと鬼は持っていた隠れ蓑を着こむ。すると本当に姿が消えたではないか。

 「びっくりした?」

 もう一回隠れ蓑を脱ぐと姿を現した。

 「すごい!」

 これは出雲の国に伝わる悲しい物語。時は桃山時代であった。

 

第一章

 

 翌日、瓜子姫とランは隠れ蓑を着こむ。

 「この隠れ蓑で空も飛べるんだ。念じてごらん?」

 すると本当に空を飛んだ。すごい!!すごい!!とはしゃぐ瓜子姫。こうして2人は邪教と称した教団の集会所に来た。

「僕は姿消したままで聞いているから」

瓜子姫は熱心に説教を聞いている。天邪鬼のランはというと宣教師の説教を疑いの目で見て聞いていた。というよりも今回の偵察は宣教師の動向把握が目的なのだ。

こんなことを続けて1月がたった。ランはだんだんと疑問と理解が同時に沸いた。なぜなら言っていることが仏教、特に浄土系の信仰に似ているからだ。弥勒菩薩の救済とイエスの救済がほぼまんまではないか。ならばなぜ彼ら、彼女たちはこの宗教に惹かれるのだろう。その大きな理由の1つとして宣教師たちは南蛮より伝来した医薬を惜しみなく使っているのである。仏教は救貧思想に欠けていた。それどころか一向一揆なども起きていた。

「・・・なるほど。」

 ランはメモを取りながら邪教と呼ばれる宗教を分析していた。

―調べれば調べるほど一神教という点を除けば大乗仏教の教えそのものである。この宗教が広がっている理由はどっからどう見ても仏教が腐敗していたからとしか言いようがない。

 瓜子姫も南蛮伝来の医薬のお世話になっていた。

 ―社会事業に関して言えば間違いなく仏教よりも一段上の宗教だな。そうか仏教には「慈愛」がない。たしかにそうだ。だけど・・・

 「ねえ、いつもありがとう」

 「あなたは改宗しないの?」

 「ねえ、僕たち天邪鬼ってどういう歴史辿って来たか知ってて質問してる?それも出雲にいながらさ・・・」

 「えっ」

 「教えてあげようか?」

 

第二章

 

 2人が隠れ蓑を使ってたどり着いたのは出雲大社であった。人の目を避けるため大社の近くの山に降り立って隠れ蓑を置いて大社まで歩いて来た。ランは無用な混乱を避けるために頭巾をかぶり、己の角を隠した。

 「瓜子姫。ここまで来て今更『私、異教の神殿になんて行きたくはありません』は無しね。大丈夫。今日は神様拝むわけじゃないから」

 「わかってる」

 そういうと参道を歩く。

 「これ見てごらん」

 それは跪く銅像だった。

 「これが僕たち天邪鬼がかつて仕えていた神。大国主だよ」

 「なんか聞いたことある」

 「この場面、どういう場面だったと思う?」

 「さあ?見当もつかないわ?」

 「『お前の国をよこせ』と脅迫されている場面なのさ」

 「えっ!?」

 「僕たちの天邪鬼族の祖先は天探女という神様。高天原から侵略しに来た天稚彦をなだめた大国主の有力な部下だった」

 「ということは・・・」

 「そう、ぼくらはここ『芦原中国』を追放されて悪鬼にされた」

 「なにもしなかったの・・・」

 「抵抗した神様はもちろん居たさ。タケミナカタ様とかね。でもタケミナカタ様は憎きタケミカズチに力でねじ伏せられた上に信州の諏訪まで逃げたさ・・・」

 「ねえ、瓜子姫。君の信じているキリスト教ってたぶん正しいと思うよ?」

 「ありがとう」

 「でもね、正しい事言っても、やってもこんな風に抵抗も出来ずに跪くときがあるんだ。圧倒的な力の前に」

 「きっと、キリシタン禁教令が本格的に運用されたら、君たちは僕たちの二の舞だよ?」

 「・・・」

 「そうなったとき、君はどう生きる?」

 「信仰を捨てる?」

 「そんなことしないわ!」

 それを聞くとランは意地悪そうな笑みを浮かべた。

 「ぼくたち天邪鬼もね、侵略されても迫害されても決して屈しなかったよ。『右向け右』って言われてもわざと左を向くような種族だからね。」

 「蛇のように賢く、鳩のように素直であれ」

 「先日の説教、この言葉の意味が僕はよくわかるな」

 「瓜子姫、覚悟があるのなら、僕は全力で君を支えるよ」

 「でも今では僕たち天邪鬼の信じている宗教は仏教だから、それは理解してね?」

 「それと君たちの里、狙われているよ。邪宗門狩りに」

 「もし、邪宗門狩りにあったら僕は君の代わりになってあげる。」

 「えっ!?でも・・・」

 「心配要らない。僕はそんなに弱く見えるかい?」

 「ありがとう・・・」

 2人は大社の近くの山に戻ると置いた隠れ蓑を再び着込み空を飛んで瓜子姫の里へ戻った。

 

第三章

 

邪宗門狩りは瓜子姫の家を襲った。瓜子姫は瓜畑で拾った子なので祖父母は「どうぞどうぞご勝手に」だった。翌日柿の木に吊るされて落とさたあと切り殺されるという。祖父母が農作業で居ない午後にランはやって来た。ランは隠れ蓑を着たままこっそり家の中に入る。瓜子姫の部屋に入ると隠れ蓑を脱いだ。

 「いよいよだね。予想通りの展開だね。」

 「君の着物貸して。それと化粧。」

 「本当にいいのね?」

 「君はここの軒下に隠れて。僕が明日ここに来るまで絶対物音立てないで。」

 こうして天邪鬼のランは瓜子姫に成り済ました。翌日邪宗門狩りの連中がランをひったてる。大きな柿の木に紐でくくりつけられて着物は剥ぎとられる。

 「終わりだな」

 紐を切り落とそうとしている。そして切った瞬間―!

 ランはくるっと宙返りして着地した。そして頭巾を剥ぎとり角を顕わにし次に懐から短刀を取り出し邪宗門狩りの連中を次々突き刺す。

 敵は全員動かぬものとなった。そしてランは急いで瓜子姫の家に戻る。

祖父母が驚く。鎌を取り出して攻撃する。

 「仕方がない」

 まるで背負い投げをするかのように彦助を投げ倒した。家の中に入り、床の一部を開ける。

 「逃げるよ!」

 「逃げるってどこに!?」

 「とっておきの場所があるんだ」

 またしてもランは意地悪そうな笑みを浮かべた。

 「待て!!この鬼!」

 富が悲鳴のような声を出す。

 「瓜子姫!行かないでおくれ!わしらが悪かったんじゃ!」

 だがそんな声に耳を傾けず、挨拶もしないまま瓜子姫は家を後にする。

 慟哭する彦助と富の声が響き渡る。2人がたどり着いたのは奥出雲の廃寺だった。

 「ここで暮らすの?」

 「いいや、ただ暮らすんじゃない。ここを君の信仰の拠り所にする。出来れば仲間も連れて来るといいよ」

 「え?でもここは仏教寺院でしょ?」

 ランは今度はゆっくりと意味深な笑いを浮かべた。

 「ここの本尊、阿弥陀如来なんだ」

 「だから何!?結局あなたも邪宗門狩りと同じ?」

 「仏教ってキリスト教の天使にもたくさん取り込まれている。この阿弥陀はインドではアミタユース、ペルシャではメタ、英語ではメートルで長さの単位だよ。」

 「ああ!」

 「そう、これは君たちの宗教で言う天使だよ。メタトロンという。」

 「ああ・・・」 

 「ここは仏教寺院じゃない。教会さ」

 

第四章

 

 こうして迫害された人たちが次々集まって来た。阿弥陀如来像に「Metatron」と書かれた札を入れる。そして背後にXの文字を彫った。信者が安堵する。札の書き方もランに教わった。

 ランは最後に「瓜子姫と天邪鬼」という物語を書き上げた。一つは自伝。もう一つは物語。

 「瓜子姫。ぼくはお尋ね者だ。ここにも追手が来るかもしれない。残念ながらここでお別れだよ」

 「そんな、ずっと居て!?」

 「この物語を広めてほしいんだ」

 「『瓜子姫と天邪鬼』ですって?」

 「そう、僕が悪役。僕は君に嫉妬して輿入れの直前に柿の木に吊るして成り代わるが失敗するって話さ。失敗したあと僕は老夫婦に刀でずたずたにされる」

 「まるで話が逆じゃない」

 「そう。嘘も100回言ったら真実になる」

 「要は僕が死んだというデマを撒いてほしんだ」

 「そんなことできない」

 「もう遅いよ。人間に成り代わった天邪鬼らがこの話を広めている」

 「でも、真実の物語はここにずっと保管してほしんだ」

 「ごめんなさい・・・」

 「どうして泣くの?」

 「私、何もあなたの力になれてない。あなたに助けられてばかり」

 「じゃあ、今度は僕たちを助けて」

 「えっ?」

 「鬼=devilとか鬼=demonって訳を辞めてほしいんだ」

 「僕たち鬼はキリスト教でいう悪魔かい?」

 「違うわ!」

 「じゃあ、こう訳してほしい。『hobgoblin』と」

 「どういう意味?」

 「善良な鬼の精霊って意味さ」

 「この語が広まれば、鬼族の肩身が少し楽になるよ」

 「私、広める。約束する。」

 「ありがとう。僕は死んだ。君を害する存在として僕は退治された。いいね?」

 「幸せにね。いい男見つけて幸せになっておくれよ」

 ランが旅立つと村の人が総出で見送る。

 「ありがとう」

 「ありがとう~」

 「天邪鬼さんありがとう~!」

 こうして隠れキリシタンの里が奥出雲のあちこちに出来た。

 寺には阿弥陀だけでなく女の子の勇壮な灯篭鬼が彫られ、置かれたという。

 

第五章

 

 ランが洞窟に戻る。門番に挨拶し転移ゲートで転移すると天空にある天邪鬼の村に戻る。村には規模からは似つかわしくない巨大な図書館や学校がある。出雲に住む天邪鬼の住処は天界でも地上界でも地下世界でもない。空界なのだ。

村の長に挨拶に行った後に村にある神殿にたどり着く。

 「メタトロン様、仕事が終わりました。」

 すると呼びかけに答えるかのように天から光が差し込む。

 ―ご苦労だった。・・・にしても私はコプト派以外ではキリスト教の天使ではない。ユダヤ教の天使だというのに・・・。

 「嘘ではないでしょう。コプト派もキリスト教。」

 ―その通り。

 「仏教では阿弥陀様というのも真実」

 ―その通り・・・。

 「メタトロン様。この辺一帯の天津神への信仰を削ぐことが出来ました」

 ―お主等はよくやっている。

 「メタトロン様、約束を果たしていただきたいのですが。」

 ―そのためにお主等に、特にお前には特別な力を授けたはずだが?

 それを聞き遂げるとランは呪を唱えた。すると背中の衣服が破れ天使の翼が飛び出す。

 「はい、メタトロン様。我々出雲に住む天邪鬼にこのような素晴らしい力を授けてくださいましてありがとうございます。」

 ―地からの祈りのおかげで我も力がみなぎってくる

 ―よかろう。そなたらに空の鳥舟の強化を行おうぞ

すると、村の近くの神殿に向かって光を当てた。するとなんということだろう。神殿の天井が割れ隠してあった船が浮かぶではないか。船には南蛮から取り寄せた大砲も備えていた。魔法で砲撃する大砲に改造されていた。船はすべて鉄で覆われている。

 ―この地の天空の主、天照への進撃。成功を祈る。

「はい、メタトロン様。」

そういって言葉が切れた。長が神殿に入る。

「おお、ついに聞き遂げられたのだな」

「はい、ソン長老」

ランは隠れ蓑を着ずに空を飛んでいる。ランの羽音が神殿に響く。ランの羽は己の皮膚と同じ紅色だ。

「長よ、進撃の合図を」

「おお!おまえら、ついに時が来た。高天原へ進撃するぞ」

そういうと長は高台に上り角笛を鳴らす。

村のあちこちで戦の鬨を発する。

それを聞き遂げるとランは呪を唱えた。ランの周りが真紅の色で渦まき、やがて渦は具現化していく。それは真紅の鎧と兜であった。角を誇らしげに突き、赤き翼を広げながら村の中央に向かう。

「我ら天邪鬼の屈辱の歴史が終わる。今こそ天空に進撃する!」

この声に村人が歓喜した。村人が次々呪文を唱えると翼を出し、鎧を具現化する。

 ランは呪を唱え、赤色に光る剣を具現化させた。

 「地上部隊、空の鳥舟の原動力は分かっているな?」

 「はい、大元帥様。『Metatron』と書かれた札がある阿弥陀像から1.0倍、普通の阿弥陀像から0.5倍の神力を頂いて、浮上石を通じて浮上しています。砲撃もしかり。」

 「ならば話は早い。この地に隠れキリシタンもしくは阿弥陀信仰を増やすのだ。それと出雲国以外の天邪鬼もこの戦に参加せよと」

 「承知・・・」

 「参加すれば我らのように力を・・・翼と武具を授けてくださるのだと・・・」

 「はっ!さっそくとりかかります」

 「皆よ、我が大元帥でよいか!」

 この声に鬨が木霊する。

 「これより失地回復戦争を始める!」

 

第六章

 

 どんどん空の鳥舟は進撃していく。空の鳥舟はかの屈辱的な国譲りの時に使われた天の鳥舟に対抗した軍船であった。天界の門が見える。

 「砲撃開始!」

 そして天界の門が砕かれた。

 「今だ!天界を攻めろ!まずは砲撃だ!」

 大砲は光をためると閃光を吐き出した。崩れゆく天界の建物。あちこちに飛び交う悲鳴。対空砲などの反撃施設はことごとく潰していった。

 「砲撃止め!天邪鬼らよ、ついに天空宮を攻める時が来た」

 そういうと次々天邪鬼の兵士が飛び出す。

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 「ついに来ましたね」

 「はい、天照様。天邪鬼一族に不穏な動きがあると聞いているのですが。まさか本当に玉砕覚悟で天界を攻めに来るとは」

 「軍隊の規模はどう?」

 「はい、主に西日本の天邪鬼がこちらに向かっていると聞いております。もっともこちらの兵力の5分の1ですが」

 「その程度なら私1人でも十分。私はこれから太陽の間で神力を貯めます。それまで対抗するふりをしなさない」

 「御意」

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「やつらはこちらが5分の1以下の軍事力で攻めて来ていると今頃馬鹿にしていると思うぞ」

「だがこちらには近代兵器があるのだ」

次々軍隊を破滅させる閃光を見ながらうれしそうに言うラン。

そんな時であった。空がどんどん暗くなっていく。

「なんだ?」

「何が起きた!?」

天界の空がどんどん暗くなっていった。

「空界の空はどうなっている!?」

「援軍からの知らせです。空界も同じです。どんどん暗くなっていきます。まるで夜です。」

「地上界は?」

「それが・・・部分日食が起きています!」

「報告いたします。相手の王、天照が天空宮内太陽の間で引きこもっています。各地の光が無くなったのもその影響かと」

「はあ?」

ランは愕然とした。まるで悪魔のような女王を想像していたからだ。天界の大軍を向けられ天邪鬼一族は虐殺も覚悟の上の進撃だったからだ。なのに・・・。

―我らが戦っている相手の女王は、こんなにも腰抜けの太陽神だったのか・・・岩戸伝説は嘘ではなかったのか・・・。

―まさか一族の天敵がこんな腑抜けだったとは・・・

―こんな敵に我々天邪鬼一族は千年も屈辱を味わったというのか!

ランはいろんな感情を吐き出した。

 

第七章

 

ランがちょうど慟哭していたとき天照が太陽の間から出ていく。体から神々しい光の陽炎が出ている。

 「よく見てなさい。私の真の姿」

そういうと天照の周りで光が爆発した。神々しい光が消えたあとに姿を現したのは三面六臂の姿で光の鎧で身を固めた美をたたえた女王であった。手には光の弓と矢を持っている。

「我の真の名は宇宙の主マハー・ヴァイローチャナ・アスラ」

「進撃するぞ。反逆者の主と一騎打ちしたい」

「はっ!」

ヴァイローチャナは次々天邪鬼軍をなぎ倒す。二臂を空に掲げると光の玉を作り、解き放つと巨大な閃光となって天邪鬼が乗っている船を次々破壊する。二臂は光の弓矢を解き放つとこれも巨大な閃光となって空飛ぶ天邪鬼らを殲滅させた。

空が元通りの明るさになっていく。

たった1人の武神によって天邪鬼らが次々殲滅されていくのを見て、致命的な認識だったことが分かった。「腑抜け」などとんでもない。あれは太陽神が力を蓄える儀式に過ぎなかったのだ。やがてランは身震いを起こした。

「我もここまでだな。まさか相手は引きこもったふりをして我を慢心させるとは。この戦は完敗じゃ。それじゃ皆よ、死に行こうかの?」

やがて空の鳥舟に向かって巨大な光の閃光が向かっていく!

「逃げるんだ!」

しかし、逃げ延びることが出来たのは船員の約3分の1だった。

周りはどんどん天界から落とされ、死んでいく天邪鬼軍。巨大な軍勢を目の前にするラン。大軍勢の後ろにはあの憎き天の鳥舟も浮かんでいた。

そしてランは信じられない姿を目撃する。

―あの姿は・・・鎧と兜を取ったら興福寺の阿修羅像にそっくりだ・・・

「我はマハー・ヴァイローチャナ・アスラにして天照。反逆者天邪鬼の将軍よ出るがよい。一騎打ちを申し込む」

そういうと弓矢を収め代わりに光の剣を鞘から引き抜く。

「我は天邪鬼の大元帥ラン。我も一騎打ちを申し込む」

紅い風が光に襲い掛かる。機から見ると2人はまるで互角のように見えたがランは明らかに力の違いを感じた。

―強い、強すぎる。

「よい魂だ。まさにお前は修羅よの。我は太陽の神にして修羅の王。我は反逆者を愛する」

「抜かせ!」

「だが、お前は特別に修羅界ではなく人間界に落としてやろう。もう一回這い上がって天界まで来るがよい」

 巨大な剣を叩きつけられた。ランは紅の剣で抑える。その時ランは信じられない光景を目撃する。ヴァイローチャナこと天照の6つの腕がめきめきとどんどん巨大化していく。そして剣ごとなぎ倒した。

 天界から堕ちていくラン。

 「大元帥様!!」

 戦いを見守っていた天邪鬼軍が次々悲鳴を上げる。

 「捕虜は全員捕えろ!お前らは鬼族にふさわしい修羅界で修業してもらうぞ。空界にある天邪鬼の街は我が破壊する」

 ヴァイローチャナは剣を鞘に納め再び弓矢を取り出し矢に光の閃光を貯め込んで天邪鬼の街に次々と放った。空界にある天邪鬼の街が崩れ落ちた。

 天邪鬼の反乱はこうして完全に敗北した。天邪鬼は失地を奪い返すどころか再び天から、空から落とされたのだ。

 ―すまぬ、私の力が足りないばかりに

ランが天界から空界に落ち、さらに地上界に落ちようとしたとき天から投げられた光の玉に包まれた。頬から涙を落としながら落ちていく。そして気を失った。

「よいのですか?ランの後ろには強大な神の影を感じます」

側近があわてて天照に問いただす。

「それも計算のうち。反逆する者が地上をおもしろくするのよ」

そう言ったとたんヴァイローチャナの体が光で爆発し、元の天照の姿に戻る。

「我は反逆者を愛する」

空界から落ちていく天邪鬼の街を見て天照は笑みを浮かべながら言った。

 

第八章

 

 「気が付きましたか?」

 「もう三日三晩眠っていたんですよ」

 ランが目にしたのは天邪鬼の子だった。

 「ここは・・・」

 ここは信濃の国の天邪鬼の王宮です。

 信濃・・・。遠くまで飛ばされたな。

 そして気が付いた。天使の翼がいつのまにか消えている。力を使い果たして己の体内に格納してしまったのだろう。だが鎧はあの時のままだ。真紅の鎧にはあちこちヒビが入っていた。

 「ちょっと上の人呼んでいきます」

 やがて副将軍らしき人物が現れた。

 「反逆者ラン、王がお呼びだ。」

 連れてこられたのは応接の間であった。

 「我は中立を守って正解だったよ」

 「我の名は信濃の国の天邪鬼の王、カラムだ」

 「私たちに阿弥陀様がお前を特別に守るようにと夢の中で仰せられた」

 「阿弥陀様の慈悲が無かったら、お前は高天原まで送り届けるところだった。我らまで勝てぬ戦に巻き込まれるのは御免だからな」

 「クラム副将軍もうその辺でいいだろ」

 「本当なら我らはタケミナカタ様の雪辱を晴らしたい。だから本当はお前の軍勢に加わりたかったのだ。だが勝てる見込みのない戦に乗り出すほど我々は酔狂じゃない」

 「それと阿弥陀様はこうもおっしゃった。後世にキリシタンらがこの土地を訪れる。お前はそのキリシタンの為に荒れ地を整備せよと。その言葉を言ったとたん阿弥陀様は天使のお姿となった」

 「お前はもう高天原に狙われている。せめて刺客に殺されない様洞窟にひっそりと暮らし洞窟と荒れ地を行き来する生活をして来い。それと、ここの天邪鬼を含め、一切の他国との天邪鬼との交流を禁止する。監視の者も付ける」

 こうしてランは信濃の天邪鬼が住む地下都市を離れた。そこは諏訪湖を一望できる山だった。ランは呪を唱えると己の躰の周り渦を巻き、己が纏っていた鎧や兜が消えた。いつもの服装に戻った。監視兵はナラム、ホロムの2人だった。3人は隠れ蓑を纏って空へ飛び立った。

 

第九章

 

 ランのための住居を作るというのは都市を作ることと同義であった。まず、洞窟に結界を張って人間が間違って洞窟入っても別の次元に飛ぶように設定した。次に洞窟内で水道と下水道を曳き、炎の石で火を起こせるようにした。上下水道は雷の魔石によって動き、浄化槽まで設けていた。洞窟内の内装も3人で手掛けた。こうして天邪鬼がたった1人だけ住む地下都市が完成した。完成と同時に、ランは隠れ蓑を着ることを禁止された。

 ボタンを1つ押すだけで炎を自在に付けたり消したりすることが出来る魔の炎石と雷の魔石と浄化槽の整備費用や食料などはナラム、ホロムから買うこととなった。ゆえにランは樹を切り倒し、薪を売ることで生計を立てていた。ランは人間を偵察していた時代の生活から激変した。

 ランは生活が安定すると「瓜子姫らに手紙を送りたいと」ナラムやホロムにせがんだ。2人からダメだと拒まれ続けたが、書く事だけは許された。ナラムやホロムからもらった手紙の中身をカラムが確認すると瓜子姫に会いたいという内容だった。カラムは最終的にOKの決断をした。

 「もし瓜子姫本人と瓜子姫の家族が許すのなら家族ごとこちらに来ていただくという条件で許そう」

 ホロムはカラムの命を受けてさっそく隠れ蓑を着て遠くの出雲国まで行った。そしてランに言われた通りの場所に向かうと、そこにはたしかに隠れキリシタンの里があった。里のものに瓜子姫の家を訪ねてやっとのことで瓜子姫に出会うことが出来た。瓜子姫の家の中でホロムはさっそくソラが書いた大量の手紙を瓜子姫に渡した。

 瓜子姫は手紙の壮絶な内容を読んで慟哭した。隠れ里を作った後に敵を討つべく天界に進撃して負けるだなんて・・・。でも私たちを助けてくれた鬼・・・。迷いは無かった。今度は私が救う番なのよ。

 「いいわ、私は行きます」

 「家族は本当に誰もいないんだね?」

 「ええ、まだ出会いはないわ」

 真っ赤になる瓜子姫。

 こうして後日ホロムは瓜子姫の分の隠れ蓑を信州から持ってきて、2人はランの居る洞窟に向かった。

 ランは信じられないものを目撃した。

 「あれは・・・まさか・・・」

 「ラン、久しぶり!」

 2人は抱き合った。もう言葉など要らなかった。

 後日、ランと瓜子姫は森を開拓しそこに阿弥陀堂を建設した。阿弥陀堂はどんどん大きくなりやがてお堂からお寺となった。もちろん阿弥陀像は表向きの話で天使メタトロンの札を中に貼っている。ここも隠れキリシタンの里だ。この辺一帯の地名を「一鬼」(ひとつおに)と呼んだ。天邪鬼ランがいる土地と言う意味だ。隠れキリシタン達は鬼を最初こそ恐れたものの、だんだん鬼と暮らすにつれて恐怖感は無くなって行った。

 ランと瓜子姫は結ばれ子供も出来、ランも瓜子姫も幸せな日々をかみしめた。子供の名前はリンという。鬼の血筋を半分引く半鬼族がこの世に誕生したのであった。ランと瓜子姫は監視兵ナラムを通じてリンのためにも洞窟ではなく里で暮らしたいと手紙でカラムに願い出た。カラムはこれを了承した。洞窟に張っていた結界は解除され洞窟は共同のトイレや調理場に改造され人間も自由に出入りが出来た。特に魔の炎石と雷の魔石の存在は極秘とされ、破った者は処刑とされた。幸いにも秘密を漏らすものは里からは出なかった。

 やがてナラム、ホロムは老齢の為兵役を引退し、2代目の監視兵はムラム、ワラムという鬼が監視にあたったが、2代目の監視兵からは直接人間の目に触れる監視を行うことを辞め、隠れ蓑を着て監視に当たった。

 ランと瓜子姫は瓜子姫との出会いと天邪鬼軍の進撃と敗北を阿弥陀堂の書院で書きあげた。タイトルは『天邪鬼の敗北』とした。

 人間の寿命は早い。瓜子姫は臨終の床につきそのまま永眠した。遅れる事約30年、天邪鬼のランも臨終を迎えた。ランが永遠の眠りに付くと光が天井から差し、赤い珠が天空へと昇って行ったという。

 一鬼の里の者たちは天邪鬼と瓜子姫の墓にはそれぞれこう刻んだという。

 

 『十字を守った天邪鬼ここに眠る』

 『十字を守った瓜子姫ここに眠る』

 

 一鬼の里の者はランが永眠したのちも、地名を変えることが無かった。しかし、ランが死んだことにより純粋な天邪鬼族が里から居なくなったことをきっかけに魔の炎石と雷の魔石は天邪鬼から買えなくなり、浄化槽の整備も出来なくなった。そしてあまりにも人里かけ離れた場所の為、キリスト教の信仰が許された明治期には里の者はほとんど里から離れたため廃村となった。天邪鬼ランの墓と瓜子姫の墓は守る者が居なくなり大正時代にはとうとう無縁仏として破壊された。証言記録によると、墓の文字が全く読めないほど荒廃していたという。極めて珍しい鬼族の墓、それも天邪鬼一族の墓だということに誰も気が付かず貴重な歴史遺産を破壊してしまったことになる。

 まことか偶然か一鬼の里から数十キロ離れた場所に明治期に軽井沢が誕生しクリスチャンが集う避暑地となった。

 

後日談

 

21世紀に入ってまず奥出雲にあった廃寺の書院にあった霧箱霧箱の中にあった巻物が発見され「瓜子姫と天邪鬼」の新しい説話が発見されることとなった。これだけでも文化人類学界は大騒ぎとなった。さらに後に信州にて出雲で発見された瓜子姫伝承と同一のものと天照と戦った天邪鬼軍の説話が発見された。巻物は陶器の中で厳重に保管されていた。こうして2つの物語は繋がり『十字と天邪鬼と瓜子姫』として紹介されることになった。

 『十字と天邪鬼と瓜子姫』の内容は反響を呼んだ。大日如来と天照が習合していることは周知の事実だが、大日如来はやはり阿修羅王ヴァイローチャナと同一の存在であることが裏付けられる結果となったからだ。阿修羅像は日月を持つがそれは宇宙仏という意味でもあったのだ。

 それだけではなかった。阿修羅は日月を持ち時に日食、月食を起こすが日本神話の天岩戸伝説と一致することにもなったのである。

阿弥陀如来メタトロンは我が国の阿弥陀信仰にも衝撃を与えた。この説話の発見をきっかけにキリスト教と仏教は交流がさらに深まったのである。

 

あとがき

 

 みなさま、『十字と天邪鬼と瓜子姫』はお楽しみいただけたでしょうか。筆者は今回日本神話×仏教×キリスト教×民話『天邪鬼と瓜子姫』という壮大なファンタジーを書き上げました。皆様の娯楽に役立てたら幸いです。

ウーフメ物語

 

序章

 

 ここは大隅の国。結界に囲まれた村で天邪鬼は陶器を作っていた。雷の魔石でろくろが動く。この陶器を売って資金源を貯めて高天原を攻める。もともと天邪鬼らは芦原中国を支配していた種族だが天津神らにより国譲りで追放された。近所の日向国高千穂に天津神らは降り立ったとも言われており、ここ大隅は天邪鬼にとって最前線とも言える場所である。

 「ウメ、織物もいいけど補充終わった魔石を運んでセットして」

 いつもは陶器の下に引く織物を作る係だが人手が足らず雷の魔石を運んでいた女の子の鬼が居た。しかしすべってしまった。そして・・・

 バリーン!

 あろうことか貴重な貴重な雷の魔石をウメは割ってしまったのであった。新しい魔石などそうそう見つかるものではない。その代り魔石は何度も魔力を補充できる優れものである。そんな貴重な魔石を補充業務の時に割ってしまったのだ。

 周りが凍りつく。

 「なんてことを!!」

 悲鳴に近い声が次々上がる。

 魔石を落としたウメはその場で捕えられた。牢屋に入れられた。ウメの処遇をどうするか一族は真剣に悩んでいた。これでは高千穂に居る神々に攻めるどころか自分の食い扶持が無くなってしまう。数日後とうとう雷の魔石の力が無くなり陶器の生産ラインがストップしてしまった。

 日向国に天邪鬼の国は無い。遠くの天邪鬼の国から雷の魔石を借り受けなければならなかった。しかしそう簡単に貸してくれるはずもない。貴重な魔石なのだ。しかも九州は天邪鬼族がほぼ駆逐された場所でもある。一番近い国で阿蘇の山奥にある天邪鬼族の国があるが国と呼べるほどの規模は持っていない。期待はできそうにない。

 「ウメを呼んで来い!」

 大隅国の天邪鬼国王ザメが怒鳴り散らす。部下たちがあわてて牢屋からウメを出し、応接の間に連れてきた。

 「お前の処遇が決まった。お前を人間の赤子に替えて柿の実に封印する。」

 「運が良ければ人間がお前を育てるだろう。しばらくの間人間として暮らせ。お前が成長し力を蓄えたら元に戻してやる。そしてお前1人で人間どもの村を滅ぼし我が国の領域を拡大せよ。それがお前の贖罪じゃ。うまくいかない場合は一生人間として暮らせ。」

 「はい・・・。」

 返事を聞くとザメは「柿の実を持ってこい!」と部下に命令する。

ザメは柿の実を片手に持ち呪文を唱えウメに闇の光を当てた。するとみるみるウメは柿の実に吸い寄せられる。それだけではなかった。柿の実が巨大化した。

「この柿の実を川に流せ」

 こうして巨大な柿の実が川に流された。

 あまりにも異様な柿の実を下流に居た人間はすぐに気が付いた。老夫婦が柿の実を持って帰ると柿の実が自然に割れた。そこには人間の赤子がいて泣いていた。

 「これはウーフメじゃ!病で死んだウーフメの生まれ変わりじゃ!」

 「神様ありがたや」

 一方そのころ天邪鬼国王ザメは旅に出た。魔石を借り受ける旅に出る。ザメは隠れ蓑を着て飛翔する。ザメは全国当てもなく手当たり次第天邪鬼の国々の王に懇願することとなった。民は陶器を売って生活することが出来ず失業者が続出し国は荒れ果て、ストも起きた。ある者は他国に移り住みある者は人間に化けて農業でほそぼそと生計を立てる者も出た。

 ―王は逃げ出した!

 やがて王宮に労働者がなだれ込み王政が終わってしまった。王族は処刑された。大隅国の天邪鬼国は国として終わってしまったとも言ってよい。

 こうしてウメことウーフメの物語が始まる。これは九州大隅国の変わったお話。

 

第一章

 

 ウーフメはすくすくと成長した。まだ7歳だというのに織物をやりたいとせがむようになった。

 「お前にはまだ早いよ」

 と止めたがどうしてもとせがむので仕方なく織らせてみた。

すると何も教えていないのにウーフメの手が勝手に動く。その動きは熟練労働者の動きであった。

 「すごい!!」

 こうしてウーフメが織る織物は評判となった。特に陶器の下に敷く敷物が1流の出来であった。こうして老夫婦はウーフメが作る織物で豊かになって行った。

 人間に化けて細々と農業を営んで命を繋ぎとめた同じ天邪鬼の女の子ニメは織物を見て確信した。

 「これはウメの織物だ!」

 ―国を滅ぼした元凶のウメは人間に転生したと聞いたが。こんなところに居たとは。

 ニメの心に湧いてきたのは復讐心。

 ―あいつさえ居なければ、今頃僕は・・・!

 その時復讐と嫉妬の心が燃え上がった。

 ―あいつが鬼として目覚めないうちに、殺す!

 そうと決まればあとはウメの居場所を突き止めるだけだ。ニメは商店主に聞き、どこから仕入れているのかを訪ねた。簡単に居場所は突き止められた。

 ―ここがウーフメが住んでいる家

 その姿は織物で裕福にそして幸せに暮らす老夫婦と子の姿であった。ますますニメの復讐心は燃え上がった。

 ―国を滅ぼしておいてあいつだけ幸せになるなんて。

―ふふっ。決めた。あいつに成り代わってやる

幸いニメも織物を織っていた。入れ替わっても織物の出来が悪くてばれるリスクも少ない。でも被りの術だと声でばれる。どうしたらよいものか。

―いや、被りの術を使うのは危ない。風邪を引いたということにしよう。あとは催眠術を使って老夫婦をごまかそう。

―ウメ、待ってろよ。お前を殺す。

 

第二章

 

 老夫婦が農作業に出たのを確認してニメはウーフメに「遊ぼう」と声をかける。しかし「忙しいの」という声が帰ってくる。ニメはさっそく催眠術をかけるも相手も鬼。なかなか催眠術が通じない。そこで老夫婦にひそかに催眠術をかけてから再度「遊ぼう」と声をかける。

 「ウーフメや、たまには子供らしく遊びなさい」

 「そうよ、仕事ばかりじゃ歪んだ大人になってしまうわ」

 両親がそこまで言うのならと戸を開ける。そこには可憐な少女がいた。

 「ウーフメ、一緒にあそぼう!」

 こうして2人は外で遊ぶようになった。最初はお互い警戒心を持っていたので大した遊びをしなかった。警戒心がほぐれるのに一月掛かった。

 やがてニメは柿の木に上って柿の木をウーフメに渡す。ウーフメは柿から生まれたからなのか食べる気がしない。むしろ吐き気がする。でもせっかくの友人の誘いなので「これは虫が付いてるから」、「これはまだ青いから」と言って丁重に断った。

 ニメはとうとう切れて本性を現した。呪文を唱えるとニメの周りが渦巻き渦が消えたかと思うとそこには鬼の女の子が居たのであった。

 「逆賊ウメ、お前を成敗する!」

 そういって呪文で闇の縄を出してウーフメを縛り上げる。

 ニメはウーフメの着物を剥ぎとりそのまま柿の木に縛り上げたまま放置した

 -僕だっていい生活したいんだ

 こうして催眠術にかかったままの老夫婦の元に帰ってニメはウーフメとして暮らすことにした。

 極上のご飯、極上のお風呂・・・。そしてふかふかのふとん。なにもかもが最高だった。

 

第三章

 

 三日後必死に織っているウーフメを見てたまには芝居小屋に行こうと両親が誘った。なんていい生活なのだろう。ウーフメに化けたニメは喜んだ。しかし芝居小屋への道のりはあのウーフメを縛り上げた柿の木があるところだった。

 ―やばい。見つかってしまう。

 やがて柿の木に差し掛かった。

 「お父さん、おかああさん。ここだけは目をつぶって通ってくださいな」

 ―はてこの子は不思議な事を言うもんじゃのお?

 どうしてもとせがむウーフメに根負けした両親は分かった、分かったとばかりに目をつぶる。

 ウーフメことウメはもう3日も縛られており死んでいた。ニメはひやひやしながら上を見ながら両親の腕を繋ぎながら歩く。

 その時突然ウーフメの目から大量の血が流れた。

 ―ぽたっ、ぽたっ

 血は両親の顔に付き、両親は思わず血を飲んでしまった。

 見上げるとそこにはウーフメの死体があった。

 「お前は偽物じゃな!」

 「ちっ!ばれたか!!」

 そういうと呪文を唱え本性を現すニメ。だが驚いたのは老夫婦の姿だった。めきめきと筋肉は盛り上がり目が赤く染まり爪と牙と角が伸びる。

 ニメは鬼の力でその場を逃げ出すもあっという間に捕まる。

 「来い!鬼よ、成敗してやる」

 鈍い音が木霊しニメの悲鳴があがる。腕を折られた。

 こうして家に連れ戻されるとニメは老夫婦の持った鉈で細かく刻まれ肉を川に流した。

 すべてが終わると老夫婦の体が元に戻った。

 「ウーフメ!!」

 老夫婦はその場で慟哭した。老夫婦は泣きながらウーフメが釣られている樹に戻り、ウーフメを降ろし家に戻って静かに寝かせた。

 

第四章

 

 その日の夜、寝ていると起きて、起きてと言う声がする。起きてみるとウーフメの霊が浮かんでいた。老夫婦に声をかけるウーフメ。しかしよく見るとウーフメの頭に角が。

 ―ありがとう。でもお父さん、おかあさん。でもごめんなさい。本当の私は鬼だったみたいなの。

 その声を聴いて老夫婦は驚いた。

 恩返しに私、陶器の作り方教えたいの・・・

 大丈夫。私の亡骸は燃やしても私消えないから・・・。

 半信半疑のまま翌日僧侶に来てもらいお経を唱え、火葬とした。裏の山に墓石を用意し遺骨を納めた。

 その夜ウーフメの霊が現れ、陶器の作り方を教わる。こうして一週間が経った。

 ―あとは実際売ってみて。きっと高価なものになるはず。

 老夫婦はためしに売ってみると「これはかつてここでいっぱい売られていた高級陶器じゃないか!」と大評判。

 こうして大隅国の天邪鬼から作り方を教えてもらった老夫婦はさらにお金持ちになって幸せに暮らしたとさ。

 

後日談

 

 天邪鬼国王ザメがはるばる出雲の国から雷の魔石を借り受け母国に戻った。しかし王宮は荒れ果て誰もいない。それどころか隠れ蓑で姿を隠してよく見ると天邪鬼の技術のはずの陶器を人間が作っていた。

 -そんなばかな!?

 荒れ果てた王宮に戻り声をかけるも誰もいない。

 「どうなっているんだ!?」

 そこに天邪鬼が農作業から帰って来た。

 「おい!居たぞ。国を捨てた逆賊の王が!!」

 「殺せ!!」

 こうして廃墟の王宮に剣が交わる音が響き渡る。

 しかし多勢に無勢。ザメの腹部に剣が貫かれる。こうして大隅国の天邪鬼の王族は死に絶えた。そんなときザメの懐から雷の魔石が落ちた。

 「そんなばかな!?王は国を見捨てたわけではなかったのか!?」

 こうして大隅国の天邪鬼の王政は終わりを告げた。後に大隅国の天邪鬼は共和制となり作る物もサツマイモを加工した食品を売り生計をたてたそうな。

 

 

 

元伝承

 

 鹿児島県伝承「ウーフメ」に基づく

 

勇者瓜姫小次郎

 

序章

 

 鬼の軍団が美濃の山城を攻めていた。攻める方は巨大な一つ目鬼。立ち向かうのは小柄な赤鬼だ。城は攻め落とされようとしていた。

 「王子だけでも逃げるんだ。セイ、お前にこの子を、カイを頼む」

 「このままじゃ美濃の天邪鬼族は壊滅させられてしまう」

 「王、このような事態となり申し訳ございません!」

 「そんな事言ってる場合か!」

 王から渡されたのはまだ赤子の鬼だった。

 「いざというときは一時的にわが子を人間に化けさせて人間に育ててもらう」

 「ごめんね、カイ・・・。こんなお母さんで」

 泣き崩れる母。

 「御意」

 そういうと裏口に出てセイは赤子を抱えて逃げる。しかし道中で敵の矢が次々セイに刺さる。

 このまま俺たちは死んでいくのか・・・?

 「すまぬ、カイ。お前にはこの方法でしか救えぬ」

 そういうとセイは呪文を唱える。カイの腕に光が突き刺さり痣が出来た。なんということであろうか。カイの角が埋まり皮膚が人間の色と同じに変化するではないか。

 それからセイは川を探し箱にカイを載せた。

 「人間に面倒見てもらえ。すまぬ。お前は王子なのにこんな思いをさせて」

セイはその場で力尽きた。

 それからしばらくして川から流れていく箱に赤子が載せられたのを老夫婦は見た。その子は天の授かりものとして大事に育てることにしたのだ。たまたま拾った場所が瓜畑の横の川だったのでその子の名前を「瓜小次郎」と名付けた。長男太郎は流行病で亡くなったのでまさに天からの授かりものと老夫婦は思ったのであった。

これは美濃の国に伝わる勇者の物語。

 

第一章

 

 瓜小次郎はすくすくと成長した。しかしその姿は白面の美男であった。艶やかな黒髪を結い上げ面立ちは端正。切れ長の瞳を持ちまるで女の子であった。老夫婦はいけないと思いながらもとうとう誘惑に負け小次郎に化粧をしてみた。仕上げに口紅を塗った。するとますます美しい姫のような姿になった。老夫婦はわが子小次郎の美貌に魅入った。

 「お前は今日から『瓜姫小次郎』じゃ!」

 こうして男にもかかわらず「姫」と名が改めて付けられた。最初はその姿と名前からいじめられるも怪力を持つ瓜姫小次郎は次々と近所の子を投げ倒した。やがて瓜姫小次郎に近づく男の子は居なくなった。

 瓜姫小次郎は当初自分の陰部を見て泣いたがやがて自分の姿を誇りに思うようになった。なぜなら逆に女の子のあこがれの的となったからだ。瓜姫小次郎はやがて女の子と遊ぶようになった。

 母親が病弱になったことをきっかけに瓜姫小次郎は織機で織物を作った。瓜姫小次郎は必ず化粧をして身も心も女になりきってから心を込めて織った。その織物は大変美しいと評判だった。しかしそんな瓜姫小次郎に対する風当たりは強かった。気味悪がられるようになった。やがて女の子も瓜姫小次郎に近づかなくなった。それだけではない。鬼同士の大規模な戦いが起きたばっかりだった。人をさらう鬼に会うかもしれぬ。あまりに不憫に思った老夫婦は外で武芸に励む時以外瓜姫小次郎の外出を禁じた。

 そんな中生き残りの天邪鬼が人間に化けていた。浪人のキイであった。「面妖な男とも女とも見える男がいる」との評判を聞きつけ、老夫婦の家にたどり着いた。

 「ここを開けておくれ」

 しかし決まって返事は…

「悪い鬼がいるかもしれないから駄目」

 であった。しかし、外で武芸をしている瓜姫小次郎をキイは見つけた。そして腕の痣を見た。

 -ま、まちがいない。カイ王子だ!

 そこで遠くから解除呪文を唱え、カイ王子に光を浴びさせた。

 すると瓜姫小次郎の皮膚が赤くなり角が伸びて行った。鬼になっても男と女の両方の魅力を併せ持つ美貌の剣士の姿であった。

 「なんだ、これは~!」

 「王子、カイ王子でございますね!」

 「違う。俺の名前は瓜姫小次郎」

 そういうとキイは呪文を唱え本性を現した。

 「王子、その痣とその姿が証拠。あなたは天邪鬼族の亡国の王子、カイ王子でございます」

 「そ・・・そんな!」

 「申し遅れました。私の名前は衛兵のキイ。もっとも今では浪人ですがね」

 

第二章

 

 とはいえたった2人で美濃の天邪鬼族国を再び建国することは出来ぬ。そこで普段は瓜姫小次郎になりすまし武芸に励んだ。育ての親への感謝も忘れなかった。本当の父の名はサイ、本当の母親の名はメイという事もキイから聞かされた。

 王子が生きていたという話は瞬く間に隣国に逃げ込んでいた天邪鬼らに伝わった。特に飛騨に逃げた天邪鬼らにとっては朗報であった。カイは老夫婦の隙を見てはキイからもらった隠れ蓑で空を飛び、飛騨の天邪鬼の根城に通った。結界を抜けて中に入るカイ王子。王城内で歓声が沸き起こる。飛騨の天邪鬼の王であるトレ王に謁見する。

 「なんと、父親譲りの美貌よの」

 「その言葉、ありがたき幸せ」

 カイ王子は美濃で覚えた織機をここで作り、かつ織ってみせた。するとこれまたたまたま飛騨の山城に訪ねていた美濃の隣国三河に逃げていた天邪鬼から提案があった。

 ―この仕組みなら魔力を込めれば自動で織ることができるはず。

 何と人間が自動織機を発明する500年以上も前に天邪鬼は自動織機を発明した。もっとも雷の魔石がないと動かないので貴重な自動織機となったが。

カイ王子こと瓜姫小次郎のあだ名は「織機王子」というあだ名が加わった。自動織機で織られた着物は品質、価格ともに人間が作ったの織物よりも上等であった。こうして人間からお金を得た天邪鬼は次々武装していった。その鎧は異形そのものであった。全部が黒鉄で覆われていたのであった。それでいながらまるで重さを感じさせない。魔力を帯びた鎧だった。魔石は幸いにも飛騨の山中にある。鉄と魔石を高熱で溶かすことによって実現した。闇色の面頬を付けると暗黒の武者そのものだ。魔石の粉を塗った面頬を付けると己の声も変わった。文字通り闇色の声であった。敵を葬るにふさわしい姿と声となった。

―この鎧なら一つ目鬼の金棒にも耐えられる。

 いよいよその時が来た。奪還する時が。両親の無念を晴らす時が。

 当然一つ目鬼側が黙って居るわけが無かった。偵察隊がカイ王子を見つけた。天邪鬼の城を奪って得意になっていた一つ目鬼族のカン王はその話を聞くと持っていた盃を叩き割った。食堂に居た鬼は全員凍りついた。

 「殺せ!!奴が人間に化けているときがチャンスだ!」

 

第三章

 

 カイは人間に化け、老夫婦の家に戻った。しばらく旅に出ると書き記していた。口実は『もっといい織機を探す』ということにした。そんな時扉から声がした。

 「王子、作戦の話でお話が」

 こんなことを知っているのは同じ天邪鬼族に違いない。カイは扉を開けた。屈強な男であった。

 さっそく2人で家を出て作戦の話を確認する。話し終えると・・・

 「そいつはいい話を聞いたぜ」

 言うや否やその男から煙が生じ正体を現す。なんと巨大な一つ目の鬼ではないか!

 「隙あり!」

 なんと縄がどんどん己を縛り上げていく。

 男は近所の柿の木にカイをつるし上げる。

 男は呪文を唱えると黒色の煙が生じる刀を生じさせた。

 「王子、お命頂戴!!」

 しかしカイも解除呪文を唱え己の本性を現し、縄を呪文で切った。地面に着地し、一つ目の鬼の足を攻撃する。崩れたところ、妖刀を奪う。そして逆に一つ目の腹を切り裂き、さらに目を突き刺した。一つ目鬼は絶命した。

 その時、別の気配を感じた。人間だ!!

 「しまった。見られた!」

 そういうと王子は急いで山に逃げた。

 育ての親正次郎は見てしまった。瓜姫小次郎が鬼になった瞬間を・・・。

 背負っている籠から薪を落とす。乾いた音が木霊した。

 「そんな・・・ばかな・・・」

 

第四章

 

 いよいよ一つ目鬼族が占拠している美濃の城を奪還する時が来た。天邪鬼らは闇の鎧を着て闇の面頬を付ける。カイは白色の魔法の粉で塗った髑髏の文様を施した面頬を付けた。我は死神なのだと敵に知らしめるためだ。

 総大将はもちろんカイだ。闇に浮かぶ白の髑髏の面頬は総大将の印にもなった。

 「親の敵を討つ!」

 闇の鎧は金棒の攻撃を最小限に抑えた。もはや敵では無かった。次々に撃破されていく一つ目鬼族。そしてとうとうカン王を捉えた。カンが手足を縛られたまま本陣に連れて来られる。カイはカンの姿を見て面頬を付けたまま喉をならす。笑っていたのだ。

 ―こいつが親の仇。こいつが俺の人生を狂わせた男

カイは獲物を目の前にしてあまりの嬉しさに笑いが止まらない。

 「覚悟はよいな?」

 「さっさと殺せ!」

 「我は死神。その言葉の望みをかなえてやろう」

 死神は闇の刀で首を飛ばし、さらに血肉を細切れにした。嬉しそうに肉を切り刻む。闇の鎧は返り血で赤の斑模様が加わった。死神は事を終えると細切れにした肉を皮袋で包み近所の川に肉を撒いた。

 面頬を取るとカイはその場で泣いた。本懐を遂げたはずなのになぜか心が虚ろになっていった。

 ―こいつを殺したっておとうさんやおかあさんが生き返るわけじゃない!

 周りは数が少ないものの総大将が慟哭する姿を見て動揺が走った。

 ―いかん。俺は総大将なんだ。

 カイは友軍に己の泣き顔を見せないよう面頬を再び被った。

 本陣に戻るとカイを勇者、勇者とたたえていた友軍の姿があった。

 カイは奪い取った城を凱旋した。傍目から見たら返り血を浴びた残虐無比な死神の姿そのものである。だがその死神が泣いていることに誰も気が付かない。死神は玉座に着いた。そしてこう宣言した。

「我、国を奪い返したり!」

大歓声が起きた。

 少年にも関わらず己の恐怖に打ち勝つべく髑髏の文様で己の顔を隠し、国を奪還した英雄としてカイは勇者と称えられることとなった。

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 カイは一つ目鬼族が持っていた宝の一部を育ての親にあげてから人間界を去るつもりでいた。カイは瓜姫小次郎に化けて隠れ蓑を置きいつもの家に帰った。しかし、両親の顔は険しい。

 「これ、とうさんやおかあさんにあげたいんだ」

 それは数々の宝玉であった。だが。

 「要らんわ、この妖怪めが!」

 「おまえが鬼という事はもうばれてるんだよ!」

 「おとうさん、何を・・・」

 「わしゃ見たんだ。お前が別の鬼に柿の木に吊るされたときお前が本性を現すところを!」

 「出て行け!」

そういうと正次郎はお札を投げた。

 カイは肩に札を当てられやけどした。しかも人間に化けていた呪文は解除されていく!

 周りには潜んでいた妖怪退治の僧侶がずらっと並んでいた。

 「悪霊退散!」

 「親父!!」

 「わしを親父と呼ぶでない!!」

 その時、隠れ蓑を脱ぎ姿を現した鬼が次々と僧侶を切り殺した。倒れゆく僧侶。

 「キイ!」

 「カイ王子、人間なんて所詮こんなもんなんです、去りましょう」

 カイは泣きながら宝玉を持ち、その場を去った。

 老夫婦は震えながら床に座り込んだ。

 

終章

 

 美濃の山城を奪還したカイは儀式を経て正式に王子から王となった。カイは王となってからも女性の服を着て化粧をする。本能がそうさせるのであった。カイが女装するたびに己の下半身が張り上げる。自分は男なのだということを体は主張しているようだ。こうして己からこみあげる快感に酔いしれながらカイは女装し続けた。特に女装して踊りを披露した。逆に謁見の間に座る時などは男の美をこれでもかと追及した服装で現れた。まさに妖美であった。

周りの天邪鬼は女装した王の姿も美しいため男女関係なく魅惑に取りつかれた。

 ―まさに天邪鬼の鑑のような方じゃ

 天邪鬼は右を向けと言えば左を向くようなわざと刃向うことをする時がある。しかしカイは男でありながら女でもあるという究極の天邪鬼であった。

 カイは王城で衣服のコレクションも開いた。美濃コレクションと呼ばれたこの大会は隣国どころかはるか関八州の天邪鬼の国々にまで轟いた。しかしなぜか関が原から西の天邪鬼は興味を示さなかった。

 コレクション開催時になると王城で華やかな衣装が次々披露されていった。

 そんな暮らしを送っていたある日、カイは城内である者に目が留まった。良く見れば男装姿でコレクションに出ていた天邪鬼ではないか。雑用係の女性であった。 

 ―なんて美しいんだ

 ―この人とならば私の苦しみも理解出来るのでは・・・

「あの・・・そなたの名前は何と言うのじゃ?」

「私の名前はレイと申します」

 2人が結ばれるのに時間は掛からなかった。

 結婚式は前代未聞の式となった。女装したカイに男装したレイが神の前で誓いを言う。国中の天邪鬼は一斉に黄色い声を上げた。

 美濃の国は以後天邪鬼らが作る衣服のおかげで衣料の一大生産地となった。人間はこれらの衣料は天邪鬼が作ったとも知らずに。

 さて、カイとレイとの間に生まれてきた子はケイと名付けられたがごく普通の男の子として成長した。両親カイとレイの男装・女装に呆れながら・・・

ーけっ!俺はあんな変態オヤジ、オフクロになってたまるか!

 ケイは物心つく年齢になるとことあるごとに両親を嫌悪するようになった。

 両親はそんなわが子を見てこう思ったのであった。

ーああ、うちの子は立派な天邪鬼だな。後継ぎは大丈夫そうだ。

 特にカイは己の肩の火傷の痕を見るたび、育ての親に裏切られた心の痛みを思い出し、息子には同じ思いをさせぬよう愛を注いだ。たとえ息子は自分の事を嫌っていようとも。

 めでたし めでたし

 

元伝承

 

 岐阜の瓜子姫伝承に基づく。日本で唯一と呼ばれる「男の子の瓜姫伝承」でかつ鬼退治伝承でもあるが、筆者は常に疑問に思っていた。もちろん室町時代に発生した瓜子姫伝承のパロディーから生まれたものであろう。それに既存の物語は「瓜子姫が活躍しないではないか」という思いから生まれたものでもあろう。しかしならばなぜ名前が「瓜小次郎」ではなく「瓜『姫』小次郎」という「姫」という名前を男の子にも関わらず付けたのであろうか。それはやはり主人公は男でありながら「姫」だったのではないだろうか?という疑念に基づく。また桃太郎でもそうなのだが老夫婦は決して鬼退治の褒美等を喜んではいない。それはなぜなのかという事もよく考えてこのような二次創作とした。

天邪鬼の力を使った瓜子姫

 

序章

 

 天邪鬼の少女は新しく出来た人間の家を偵察していた。今の所危険性はないがいつ鬼の領地を侵略するかわからない。このため隠れ蓑を着て、姿を隠して偵察していた。この地域はコメが取れるものの冬は豪雪地帯の為生きるのは厳しい。

 家から声が聞こえる。娘はせき込んでいるようだ。

 「せっかく拾ってやったのに病人になるなんてな」

 「お前の織物が売れなくなったらもう一回捨てるよ?薬代も掛かるし」

 ―ひどい

 織り機の音が聞こえる。そっと戸をあけて覗いてみた。

 ―なんて可憐な少女なんだ。

 自分も同じ女の子なのに思わず魅入ってしまった。

だが、次の言葉で天邪鬼は怒りを覚える。

 「悪い鬼が来るから戸は開けるなよ。戸が開いているぞ」

あわてて逃げる天邪鬼。隠れ蓑を着てなければ今ごろどうなっていたことか。

 これは越後の国に伝わる悲しい物語。

 

第一章

 

 天邪鬼の少女ソラは以来、ここの家に来るようになった。 「戸を開けておくれ」と言っても「あなたは悪い鬼でしょ。だめ」と言う声しか帰ってこない。そのたびにソラは「少しだけでいいから」と言ってそっと戸をあけてもらうと柿の実や花をそっと置いて去っていく。思いが通じたのかある日突然戸が開いた。

「あなたがいつも物を置いていく鬼なのね・・・」

 その姿は赤鬼の可憐な少女だった。

「私の名前は瓜子姫」

「私の名前はソラよ」

以来近所の柿木で会話する事が多くなった。瓜畑に捨てられていたから「瓜子姫」と名付けられたこと、拾ったのは老夫婦だということ、流行病で次々この地域の人が死んでいることであった。でもあれと思った。鬼族には病気にかかった者など居なかったからだ。

「えっ!鬼さんたちは病気にならないの?」

「ならないよ。なにが原因なんだろうね」

「おっと偵察から帰らないと。じゃあな。」

ソラが帰ると仲間の偵察部隊が次々と同じことを言う。

「俺たちにも感染しないのだろうか」

「不気味だ。人間だけに感染して鬼には感染しない」

「特徴は『咳が出る』か・・・」

ソラは思わず提案する。

「あの・・・人間連れてきて診察ってやっぱダメっすよね・・・?」

この提案に対してリスクが多すぎるという提案もあったが最終的に診ない事にはわからないとなり連れていくことにした。

 

第二章

 

 ソラは祖父母が出るのを確認してから家に入る。

 「病気、お医者に診せようか」

 「でもお金が・・・」

 「大丈夫だよ。でも鬼の村に行くけど大丈夫・・・?」

 瓜子姫は怖くなった。私を食べる気なんだろうか・・・

 「その顔を見ると食べられるかもとか思っているよね?」

 「そんなことないわ!」

 「嫌ならいいんだよ、別に」

 「でも・・・こんな生活嫌。出来るなら治したい」

 「なら決定だね」

 ―翌日ソラは瓜子姫の分の隠れ蓑を持ってきて、空を飛んで鬼の村に到着する。瓜子姫の飛行はふらふらだ。

 診察した鬼のキラは絶句した。

 -なにかの病魔に侵されている。血液ごと替えないとこの子は助からない

 診察結果に驚いた瓜子姫。

 「助からないの?」

 「いいや、1つだけ方法がある」

 「それは?」

 「このソラが瓜子姫に乗り移って、病魔を撃退する」

 「ええっ!」

 「4か月間ね」

 「それ以上ずっと乗っ取ってしまうと君の精神が消滅する。」

 「しかも乗り移ったとしても成功するとは限らない」

 「そんな・・・」

 「でもこのままだと長くは持たないよ・・・」

 里まで一緒に旅するソラと瓜子姫

 「よく考えてね・・・一生の事だし」

 「うん・・・」

 その夜、織物の出来が悪いと怒号が飛んだ。

 

第三章

 

 農作業で祖父母の居ないときにソラは瓜子姫の家にやって来た。

 「どうするの?」

 「あなたの力を借りるわ・・・。いいわ。乗っ取って」

 「本当にいいんだね?」

 「後悔しないんだね?」

 「それと重要な事言ってないけど、通算5か月以上乗っ取ったら君の精神を僕が食い尽くしてしまうんだよ。この『乗っ取りの術』は一度君の体はなれたらまた4か月延長できるというわけじゃない。あくまで通算だからね。」

 「え?」

 「しかも完全に君を乗っ取った後で僕が本性を現す場合は寄生虫のように君の肉体の中から割って僕が飛び出す・・・。そういう残酷な術なんだ『乗っ取りの術』って。期日内だと単に透明な姿で分離するけど」

 「だから本当に、僕が君に乗り移っていいんだね?」

 「それと乗り移った後はあんまり人前でしゃべらないでね。独り言に聞こえるから。つまり頭おかしい人に見られるよ。」

「もう一回言うけど本当にいいんだね?」

「うん!」

じゃあ待ってて。君の手を握るから。

「こうでいいの?」

お互いが手を握った。

「目をつぶって。決して僕を見ないで。」

そういうと呪文を唱えながらソラの周りが渦巻く。するとどんどんソラが透明になっていく。

 そして透明になったソラは瓜子姫に重なるように動いた。さらに呪文を唱えると微妙に重なっていない部分がぴったりおさまった。こうしてソラは瓜子姫を乗っ取った。

 ―あ!!すごい!!

 「だーかーらー!しゃべるなって!」

 「ちなみに肉声こそ君の声だけど言葉を発する意思を持つのは僕だけだよ。だって僕は君の肉体を乗っ取っているんだもん」

 「さあ、今日から僕は君になるよ」

こうしてソラは瓜子姫を乗っ取った。

 ソラは隠れ蓑を使って人間には到底行けないような場所にも旅をした。

 「これが、谷川岳の頂上だよ」

 ―す、すごい!!

越後国はもちろん天然の壁で向こうの国となっていた上野国まで見える。鬼たちが普段見ている光景のなんとすばらしい事か。

「ぼくたちは文字通り天空に住む鬼、天邪鬼なのさ」

ソラは、いや瓜子姫は以後毎日のように越後の国中を旅した。瓜子姫が見たことのない景色、光景を見て回った。

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 鬼の村では針が付いた筒で瓜子姫の血を少しだけキラに抜き取ってもらった。

 「これで瓜子姫の病気の正体が分かるかもしれん」

鬼のキラは少し安堵の表情となった。

 「しかもソラの力で動き回っているから瓜子姫は見かけ上まったくの健康体だ。」

 「でも気を付けて。あくまでこれはソラの力。決して瓜子姫の本当の力じゃないよ」

 ―はい!

 「『はい』って本人言っているよ」

 「お大事に」

 祖父母の暴力に対しては手を素早く抑えるなどソラは防御に徹した。

 「おまえ、最近咳しなくなったな。病が治ったのか。結構な事だ」

 本当はこの時鬼の怪力でこの祖父母の指をつぶそうかと思ったが、正体がばれるのであえてしなかった。

 鬼の怪力を使って織機を直した。すると織物の出来がどんどんよくなっていく!

 とんとんからり、とんからり・・・

 織機のきれいな音が響き渡る。熟練者でなくとも織れる織物と織り機の評判は越後国の殿様の声にまで届いた。

 

第四章

 

  やがて4か月経った。ソラは呪文を唱え瓜子姫の体から離れた。ソラは透明な姿となって瓜子姫から分離してやがて実体を現した。

 しかし、翌日に瓜子姫は再び咳が出るようになった。瓜子姫は結局鬼のキラに診てもらうことにした。

 「これはきゅうり病という珍しい病気だよ」

 「え?なにそれ!?」

 「小さい傷口からきゅうり菌というものが入って最後は人間がきゅうりになる。」

 瓜子姫はおかしくて笑った。そんなことがありえるものか。

 「瓜畑に捨てられたと言ったよね。きっとその時きゅうりの特殊な菌が君に入ってしまったに違いない。そしてゆっくりと増殖した。」

 「信じてくれないかもしれないが、ほかの人間はいわゆる普通の流行病だった。でも君だけ菌が違ったんだよ」

 「そんな」

 「この病はたとえ鬼が乗り移っても進行を食い止める事しかできない。それは人間の死を意味する」

 「ソラは瓜子姫の最後を見てやってくれ」

 瓜子姫は泣いた。ソラは一緒に瓜子姫の家まで送った。

 「瓜子姫、僕らは一生友達だよ。一生ね」

 「うん・・・」

 だが瓜子姫はソラが離れた後信じられない声を聴いた。

 「長岡藩の殿様の使いの者が来て瓜子姫を嫁がせてほしいと言ってきた」

 「これで持参金もらえて一生楽に暮らせるぞ!」

 ―そんな!!

 織機や織物を見て来るお客は絶えなかった。だが、こんなことになろうとは。

 翌日、瓜子姫は正式に祖父母から殿様への婚姻の件を聞いた。病気の事を伝えても殿様に信じてもらえないだろう。どうすれば・・・

 午後、ソラは瓜子姫のところに見舞いにやってきた。そして瓜子姫から話を聞くと絶句した。

そして瓜子姫の背中を見せてもらった。ほんのわずかだがすでにきゅうりのような皮が広がっている。

 「瓜子姫、僕はもう見てられない。ぼくはこの件について鬼の長と相談してくる」

 ソラは鬼の村に戻った。長老のカラは事の顛末を聞いた。傍には医師のキラも一緒だ。

 「よいチャンスだ。瓜子姫の体を奪って人間の殿と結ばれればよい。」

 「その子は鬼の血を半分は引く子となる。その子が生まれた時にわが天邪鬼軍が全力でもって長岡城を急襲する。そうすればいずれ越後国全土は鬼のものよ・・・これで迫害されている天邪鬼は山でなく堂々と街に住める」

 「ソラよ、わかるな。お前の日々の偵察の成果が実ったのだぞ。人間と鬼が共存できる国の建国。いよいよ我らの念願の実現の時が来た」

 「はい、長老。必ずや成功してみせます」

 ソラは牙を見せてにや~と笑った。

 

第五章

 

 ソラは瓜子姫の家にやって来た。もう瓜子姫は寝込んでいた。こんな状態なのに瓜子姫は殿様に継がせるという。人間とはなんと非情なのか。

 「ソラ、私あなたに喰われたい・・・」

 「私の体、乗っ取ってもいいよ・・・」

 「ありがとう。その言葉待っていたよ。でも今度は徐々に君の精神を食いつぶす。本当にいいんだね?」

 「当たり前じゃない。どのみち私死ぬんだし。私、きゅうりになるなんて嫌だわ」

 涙が頬を伝う。

ソラは瓜子姫の願いを聞き遂げると例の呪文を唱え、瓜子姫を乗っ取った。やがて祖父が帰って来た。布団を見て言う。

 「また寝ているのか、この役立たず」

 祖父の平手打ちが来たが己の手でまたも跳ね除けた。

 「今度こんな事してみろ?殺す」

 と、祖父の胸倉を掴みながら吹雪の声でソラは言った。

 祖父はあわてて逃げた。

  ―ありがとう・・・

ソラはその後も瓜子姫と会話するがもう瓜子姫は言葉がとぎれとぎれになっていた。

 ―わたし・・・あわせ

 「ぼくもだよ」

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 ある日、祖父は農作業に出たふりをして瓜子姫を外から監視した。この時ソラはせめて瓜子姫の最後を見届けるため妖力を引き出してお互い会話をしていた。瓜子姫の周りには闇色の陽炎が生じていた。瓜子姫の影に、頭頂の影の部分には角が出ていた。

 ―ソラは実は私の事を利用してたんだよね?

 ―バレてたのか

 ―でもね、私を救ってくれたのも貴方なのよ。しかも親友と呼べるのはあなただけだった。

 ―ごめんよ・・・本当にごめん

 ―謝ること無いわ。ちゃんと子供立派に育てるのよ。殿様の子どもなんだから。

 ―約束は守るよ。

   ソラは瓜子姫の願いを聞き遂げると心置きなく己の体内で目覚める瓜子姫の意識を闇色に塗りつぶした。闇は、ソラの心は瓜子姫の心を味わい尽くす。光が消えると瓜子姫の体内の血肉が踊り狂い体のあちこちで凄惨な音が響き渡る。こうしてソラは瓜子姫の体を完全に乗っ取った。瓜子姫だったものは何度も拳を握り返し首をひねって己の体を確かめる。最後ににたりと笑みを浮かべて己の体から生じている闇色の陽炎を消した。

―鬼!!

祖父はこの光景を見て腰を抜かした。夜にこっそり妻のばあやに鬼の影の事や瓜子姫の血肉が踊り出した事を話した。

 「近所の神主に聞いてみるべ。たしか鬼なら真実の鏡が照らして鬼の力を削ぐはず」

 祖父は近所の神社に行き、事の顛末を言うと真実の鏡を借り受けた。祖父は鏡の光を瓜子姫に化けてる鬼に当てるチャンスを数日間うかがった。

 ソラは乗っ取った瓜子姫の体にようやく体がなじんだ。そんな時である。もう殿様に嫁ぐ日が迫っていたある日の事。

 「瓜子姫や、もう婚姻の儀が迫っておる。お化粧するのじゃ」

 そういって真実の鏡を瓜子姫に見せた。

 真実の鏡が輝きだし、瓜子姫の顔に真実の光が当たると瓜子姫は悲鳴を上げた。

 祖父母はあまりのことに一部始終見届けてしまった。まず瓜子姫の額に縦のひびが生じ、やがてひびが躰全体に伝わる。やがて体中から血しぶきをあげ瓜子姫だったものがめきめき音を立てながら衣服ともども横に割れた。その瓜子姫の体内に子供の鬼が居たのであった。鬼のこめかみから瓜子姫の体に通じていた神経の束と喉と喉を繋ぐ管、大腸と大腸を繋ぐ管が切れて溶けるとすばやく繋ぎ目部分の穴が消えて行く。鬼は瓜子姫の体に通じていた神経の束が切れ、己の頭髪がすべて失っているのを己の手で確認し、さらに瓜子姫の口から己の口に通じていた管が消え、己の尻から出て瓜子姫の尻に通じる腸管が消えているのをそれぞれ己の手で確認した。次に己の口、鼻、耳を覆っていた鱗を手で剥がし、そして眼を覆っていた鱗を手でそっと剥がして瞼を開けた。鱗を剥がすたびにめりめりと大きな音がする。最後に鬼はまだ己が纏っている瓜子姫だった手足の皮と血肉を剥ぎ終わってからうれしそうに悔しさをにじませながらこう言った。

 「見たよな?」

 ソラは2つに割れた瓜子姫の死体を確認するとにた~と笑みを浮かべて裸のままこの場を逃げ出した。祖母が卒倒する。だが鏡の光の威力はこんなものではなかった。祖父が鏡の光を逃走中のソラに当てる。さらに悲鳴を上げソラがつまずいた。この光は鬼の力を無効化するものであった。なんとソラの体がどんどんきゅうりの皮に覆われていく。鬼の力を失ったソラは瓜子姫を通じて感染したきゅうり菌に抵抗する力を失った。こうして天邪鬼のソラはきゅうりとなった。

 この話は越後国に瞬く間に伝わり、鬼族に支配される寸前だったところを食い止めた勇者として殿は祖父母に褒賞を与えたという。そればかりかこのきゅうりは大変おいしいと評判で種が出回りやがてきゅうりは越後国の新しい名産品となった。逆に鬼族、特に天邪鬼は越後国を支配する千載一遇のチャンスを逃し、悲嘆にくれたという。

 

元伝承

 

 新潟県版「瓜子姫と天邪鬼」に基づく。ただし、「瓜子姫を乗っ取ったが正体が祖父母にばれて天邪鬼が逃げたが転び、天邪鬼が転んだ時にきゅうりになった」という話は全国でも1例しかなく、基本的に新潟県内の「瓜子姫と天邪鬼」は東北の説話群に準じる。今回は全国でも1話しかない新潟説話の「瓜子姫と天邪鬼」をライトノベル風に書き起こした。

肝を食われた狐

序章

 

 ここは武州川越。舟運で栄えた街である。そんな川越の街で最近妙な噂がとびかった。

 「最近臨終間際の人間の横に白狐様が現れて肝を食われるらしい」

「なのに傷跡がないらしい」

「胸を貫き刳いた後うまそうに肝を食っている白狐を見た」

そんな噂が飛び交っていたのだ。これは江戸時代に伝わる武州の不思議なお話。

 

第一章

 

 白狐のコトは人間の肝が大好きであった。妖狐は生きている人間の肝を食うことが禁じられた代わりに死んだ人間の肝を食うことが許されていた。そのためコトも人間が死んだ直後の新鮮な肝が大好物であった。

 コトは稲荷神社でいもの豊作を願う少女の願いを聞いた。ここは8代将軍吉宗が新田開発した場所である三富に近い。コトは神通力で少女に伝える。

 ―その願い、かなえてやってもいい

 「えっ!?」

 ―その代り少々の代償が伴うぞ?

 「あ、はいっ!」

 少女が嬉しそうに稲荷神社から走り去る。

 少女の家の近所に臨終間際の老人が居た。

 その家に突如人間に近い姿でコトは姿を現す。

 「おまえさんは・・・!」

 「すまない。近所の子がそなたを生贄として要望した。安心するがよい。そなたの肝は死んでから頂くとする」

 その言葉に耐え切れなかったのか老人は息を引き取った。コトは生贄が死んだのを見届けると老人の胸を貫き、肝を抉り出す。そしてうまそうに肝を食う。

 「なかなかの美味だ」

 コトは肝を食した後に抉った箇所に手を当てると死体の傷が一切消えた。そしてコトは瞬時に消えた。

 このありさまを家の壁の穴からそっと見ている人間がいた。

 コトが居なくなるとやがて大声を出した。

 「で、出た~!」

 

第二章

 

 妖狐が人間の肝を食うという噂はたちまち瓦版を経て一気に川越中の噂になった。それだけではなかった。

 ―人間の肝を食った狐の肝を食うと長寿になるらしい

 コトはそんな噂を聞き流すかのように三富の大地に呪力を放つ。

 ―これでさつまいもの実も大きくなるであろう。

 川越の商人は廻船問屋を介して江戸へいもや狭山茶を運ぶ。ますます川越は豊かとなり商売繁盛となった。

 コトは夜の川越の街に狐火を出して人間に警告を発した。それでも人間の噂が止まらなかった。コトは東松山稲荷大明神である箭弓に仕える妖狐であった。噂は当然箭弓の耳に入ってしまい、東松山の箭弓稲荷神社へ出向くと主の箭弓から「人間に気を付けるのじゃ」という警告を受けた。

 「ところでコトよ今日は例の物を持ってきたかえ?」

 「こちらに」

 コトが桐の箱を開ける。それは人間の肝を干したものであった。コトは桐箱をうやうやしく箭弓の前に差し出す。

 「これがないと我々の呪力が回復せぬからの」

 肝をうまそうに咀嚼しながらうれしそうに言う箭弓。

 「箭弓様、お望みとあらばもっともっと人間を狩りましょうぞ?」

 「何度も言うが人間に気を付けるのじゃ。あやつらの力をなめたらあかん」

 「はっ」

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 コトは肝を食ったあとに人間にはお礼を返していた。そのためか川越の稲荷神社は参拝客が絶えなかった。コトは江戸の王子にある稲荷神社に出かけては仲間の妖狐らと共に人間に化けて江戸の街で遊ぶこともしばしばであった。当然、肝を食う時も・・・。狐の姿で川越に帰るのは危険なので人間の姿で舟に乗って川越に帰る。たった3時間で江戸から川越に着くのでそのほうが楽でもあった。そんな時に仲間の稲荷からとんでもないことを聞いた。

 「飢饉が来るぞ。人間の肝をいっぱい食えるな」

 

第三章

 

 天保の大飢饉は東北の穀倉地帯を中心に襲った。東北だけでなく関東にも飢餓が襲う。コトは肝を食う事はうれしいのだが、餌となる人間が減少しては困るので大地に呪術を放つ。幸いさつまいもは冷害の時にも強い。だが人間は恐怖におびえた。死ぬ間際に妖狐が着て肝を食うと。もっともコトは肝から得る妖力が無いと長生きできない。あと300年は生きられるので、若いうちに妖力が尽きて死にたくなかった。やがて飢饉は収まり江戸も小江戸川越も落ち着きを取り戻した。文政6年、コトは白狐の姿のまま雪の日に出る。白狐にとって雪の日は雪から呪力を得られる特別な日なのだ。しかし、このチャンスを街の人は見逃すはずが無かった。木刀を持って隠れる町の衆。コトは安心しきっていた。雪とじゃれあっていた。その時。

 「今だ!!」

 周りから木刀で次々殴られるコト。そして自分が今までしてきたことを人間に去れる時がやってきた。狐の悲鳴が木霊する。コトはこのとき最後の呪文を唱えた。

 「やったぜ!これが狐の肝だ。3人で山分けだ!」

 3人は狐の肝を食った。3人の力がみなぎる。3人の体に異変が起きたのはすぐだった。うめき苦しみ倒れる。それだけでなかった。川越中で狐火が出るようになった。

 ―仲間を殺すとはいい度胸だ

 その後、川越では毎日のようにおどろおどろしい声が飛び交った。川越中で大パニックとなり、やがて川越の町人は雪塚稲荷神社を作りコトの怨霊を沈めたという。人間らが反省しているのを見て妖狐らは病魔を川越に振り撒くのを辞め、また狐火を出すのも辞めたと言う。

 

 元伝承・解説

 

 武州川越の通りに一匹の白狐が迷い現れた。これを見た若い衆数人が白狐を追い回し打ち殺し、白狐の肉を食したところたちまち熱病にかった。さらに毎夜大きな火の玉が街に現れるようになった。川越城下町の者はこれを白狐の祟りだとして恐れ慄き、そして死んだ白狐の皮と骨を埋めて塚を築いた。川越町民は雪の日の出来事であったことにちなんで、「雪塚稲荷神社」と名付けて奉斎した。1980(昭和55)年に雪塚稲荷神社から石版が発掘された。その石板には「文政6年2月12日御霊昇天」と刻まれていたたことからこの出来事は(狐火はともかく)史実ということが判明した。1823(文政6)年ということは今から約200年前の出来事である。

 2018(平成30)年現在の川越では「川越妖怪ツアー」が不定期で開催されており、ナイトツアーの「川越妖怪ツアー」で雪塚稲荷神社へ訪れることも出来る。しかし、普段は観光客でにぎわう大通りの横にひっそりと雪塚稲荷神社へ向かう横道があるが、ほとんどの観光客はこの横道の存在に気が付かないため雪塚稲荷神社まで観光客はめったに来ない(雪塚稲荷神社の知名度も大変低い)。このため雪塚稲荷神社は知る人ぞ知る川越妖怪伝説の地となっている。

 妖狐が人間の肝を食うという設定はダキニ天伝承から採ったものであるが雪塚稲荷伝承では見られない。私の創作である。

 この白狐は川越から約30km離れた東松山の箭弓稲荷神に使えた稲荷神だそうである。このため物語でも「白狐は箭弓の忠実な部下」という点はそのままとした。

 大観光地川越にある妖怪伝説の割には知名度が相当低いので、この民話(妖怪伝説)を広めるために私は創作に至った。