らんたの小説

存在する民話をライトノベル風に2次創作した小説を公開するサイトです

ウーフメ物語

 

序章

 

 ここは大隅の国。結界に囲まれた村で天邪鬼は陶器を作っていた。雷の魔石でろくろが動く。この陶器を売って資金源を貯めて高天原を攻める。もともと天邪鬼らは芦原中国を支配していた種族だが天津神らにより国譲りで追放された。近所の日向国高千穂に天津神らは降り立ったとも言われており、ここ大隅は天邪鬼にとって最前線とも言える場所である。

 「ウメ、織物もいいけど補充終わった魔石を運んでセットして」

 いつもは陶器の下に引く織物を作る係だが人手が足らず雷の魔石を運んでいた女の子の鬼が居た。しかしすべってしまった。そして・・・

 バリーン!

 あろうことか貴重な貴重な雷の魔石をウメは割ってしまったのであった。新しい魔石などそうそう見つかるものではない。その代り魔石は何度も魔力を補充できる優れものである。そんな貴重な魔石を補充業務の時に割ってしまったのだ。

 周りが凍りつく。

 「なんてことを!!」

 悲鳴に近い声が次々上がる。

 魔石を落としたウメはその場で捕えられた。牢屋に入れられた。ウメの処遇をどうするか一族は真剣に悩んでいた。これでは高千穂に居る神々に攻めるどころか自分の食い扶持が無くなってしまう。数日後とうとう雷の魔石の力が無くなり陶器の生産ラインがストップしてしまった。

 日向国に天邪鬼の国は無い。遠くの天邪鬼の国から雷の魔石を借り受けなければならなかった。しかしそう簡単に貸してくれるはずもない。貴重な魔石なのだ。しかも九州は天邪鬼族がほぼ駆逐された場所でもある。一番近い国で阿蘇の山奥にある天邪鬼族の国があるが国と呼べるほどの規模は持っていない。期待はできそうにない。

 「ウメを呼んで来い!」

 大隅国の天邪鬼国王ザメが怒鳴り散らす。部下たちがあわてて牢屋からウメを出し、応接の間に連れてきた。

 「お前の処遇が決まった。お前を人間の赤子に替えて柿の実に封印する。」

 「運が良ければ人間がお前を育てるだろう。しばらくの間人間として暮らせ。お前が成長し力を蓄えたら元に戻してやる。そしてお前1人で人間どもの村を滅ぼし我が国の領域を拡大せよ。それがお前の贖罪じゃ。うまくいかない場合は一生人間として暮らせ。」

 「はい・・・。」

 返事を聞くとザメは「柿の実を持ってこい!」と部下に命令する。

ザメは柿の実を片手に持ち呪文を唱えウメに闇の光を当てた。するとみるみるウメは柿の実に吸い寄せられる。それだけではなかった。柿の実が巨大化した。

「この柿の実を川に流せ」

 こうして巨大な柿の実が川に流された。

 あまりにも異様な柿の実を下流に居た人間はすぐに気が付いた。老夫婦が柿の実を持って帰ると柿の実が自然に割れた。そこには人間の赤子がいて泣いていた。

 「これはウーフメじゃ!病で死んだウーフメの生まれ変わりじゃ!」

 「神様ありがたや」

 一方そのころ天邪鬼国王ザメは旅に出た。魔石を借り受ける旅に出る。ザメは隠れ蓑を着て飛翔する。ザメは全国当てもなく手当たり次第天邪鬼の国々の王に懇願することとなった。民は陶器を売って生活することが出来ず失業者が続出し国は荒れ果て、ストも起きた。ある者は他国に移り住みある者は人間に化けて農業でほそぼそと生計を立てる者も出た。

 ―王は逃げ出した!

 やがて王宮に労働者がなだれ込み王政が終わってしまった。王族は処刑された。大隅国の天邪鬼国は国として終わってしまったとも言ってよい。

 こうしてウメことウーフメの物語が始まる。これは九州大隅国の変わったお話。

 

第一章

 

 ウーフメはすくすくと成長した。まだ7歳だというのに織物をやりたいとせがむようになった。

 「お前にはまだ早いよ」

 と止めたがどうしてもとせがむので仕方なく織らせてみた。

すると何も教えていないのにウーフメの手が勝手に動く。その動きは熟練労働者の動きであった。

 「すごい!!」

 こうしてウーフメが織る織物は評判となった。特に陶器の下に敷く敷物が1流の出来であった。こうして老夫婦はウーフメが作る織物で豊かになって行った。

 人間に化けて細々と農業を営んで命を繋ぎとめた同じ天邪鬼の女の子ニメは織物を見て確信した。

 「これはウメの織物だ!」

 ―国を滅ぼした元凶のウメは人間に転生したと聞いたが。こんなところに居たとは。

 ニメの心に湧いてきたのは復讐心。

 ―あいつさえ居なければ、今頃僕は・・・!

 その時復讐と嫉妬の心が燃え上がった。

 ―あいつが鬼として目覚めないうちに、殺す!

 そうと決まればあとはウメの居場所を突き止めるだけだ。ニメは商店主に聞き、どこから仕入れているのかを訪ねた。簡単に居場所は突き止められた。

 ―ここがウーフメが住んでいる家

 その姿は織物で裕福にそして幸せに暮らす老夫婦と子の姿であった。ますますニメの復讐心は燃え上がった。

 ―国を滅ぼしておいてあいつだけ幸せになるなんて。

―ふふっ。決めた。あいつに成り代わってやる

幸いニメも織物を織っていた。入れ替わっても織物の出来が悪くてばれるリスクも少ない。でも被りの術だと声でばれる。どうしたらよいものか。

―いや、被りの術を使うのは危ない。風邪を引いたということにしよう。あとは催眠術を使って老夫婦をごまかそう。

―ウメ、待ってろよ。お前を殺す。

 

第二章

 

 老夫婦が農作業に出たのを確認してニメはウーフメに「遊ぼう」と声をかける。しかし「忙しいの」という声が帰ってくる。ニメはさっそく催眠術をかけるも相手も鬼。なかなか催眠術が通じない。そこで老夫婦にひそかに催眠術をかけてから再度「遊ぼう」と声をかける。

 「ウーフメや、たまには子供らしく遊びなさい」

 「そうよ、仕事ばかりじゃ歪んだ大人になってしまうわ」

 両親がそこまで言うのならと戸を開ける。そこには可憐な少女がいた。

 「ウーフメ、一緒にあそぼう!」

 こうして2人は外で遊ぶようになった。最初はお互い警戒心を持っていたので大した遊びをしなかった。警戒心がほぐれるのに一月掛かった。

 やがてニメは柿の木に上って柿の木をウーフメに渡す。ウーフメは柿から生まれたからなのか食べる気がしない。むしろ吐き気がする。でもせっかくの友人の誘いなので「これは虫が付いてるから」、「これはまだ青いから」と言って丁重に断った。

 ニメはとうとう切れて本性を現した。呪文を唱えるとニメの周りが渦巻き渦が消えたかと思うとそこには鬼の女の子が居たのであった。

 「逆賊ウメ、お前を成敗する!」

 そういって呪文で闇の縄を出してウーフメを縛り上げる。

 ニメはウーフメの着物を剥ぎとりそのまま柿の木に縛り上げたまま放置した

 -僕だっていい生活したいんだ

 こうして催眠術にかかったままの老夫婦の元に帰ってニメはウーフメとして暮らすことにした。

 極上のご飯、極上のお風呂・・・。そしてふかふかのふとん。なにもかもが最高だった。

 

第三章

 

 三日後必死に織っているウーフメを見てたまには芝居小屋に行こうと両親が誘った。なんていい生活なのだろう。ウーフメに化けたニメは喜んだ。しかし芝居小屋への道のりはあのウーフメを縛り上げた柿の木があるところだった。

 ―やばい。見つかってしまう。

 やがて柿の木に差し掛かった。

 「お父さん、おかああさん。ここだけは目をつぶって通ってくださいな」

 ―はてこの子は不思議な事を言うもんじゃのお?

 どうしてもとせがむウーフメに根負けした両親は分かった、分かったとばかりに目をつぶる。

 ウーフメことウメはもう3日も縛られており死んでいた。ニメはひやひやしながら上を見ながら両親の腕を繋ぎながら歩く。

 その時突然ウーフメの目から大量の血が流れた。

 ―ぽたっ、ぽたっ

 血は両親の顔に付き、両親は思わず血を飲んでしまった。

 見上げるとそこにはウーフメの死体があった。

 「お前は偽物じゃな!」

 「ちっ!ばれたか!!」

 そういうと呪文を唱え本性を現すニメ。だが驚いたのは老夫婦の姿だった。めきめきと筋肉は盛り上がり目が赤く染まり爪と牙と角が伸びる。

 ニメは鬼の力でその場を逃げ出すもあっという間に捕まる。

 「来い!鬼よ、成敗してやる」

 鈍い音が木霊しニメの悲鳴があがる。腕を折られた。

 こうして家に連れ戻されるとニメは老夫婦の持った鉈で細かく刻まれ肉を川に流した。

 すべてが終わると老夫婦の体が元に戻った。

 「ウーフメ!!」

 老夫婦はその場で慟哭した。老夫婦は泣きながらウーフメが釣られている樹に戻り、ウーフメを降ろし家に戻って静かに寝かせた。

 

第四章

 

 その日の夜、寝ていると起きて、起きてと言う声がする。起きてみるとウーフメの霊が浮かんでいた。老夫婦に声をかけるウーフメ。しかしよく見るとウーフメの頭に角が。

 ―ありがとう。でもお父さん、おかあさん。でもごめんなさい。本当の私は鬼だったみたいなの。

 その声を聴いて老夫婦は驚いた。

 恩返しに私、陶器の作り方教えたいの・・・

 大丈夫。私の亡骸は燃やしても私消えないから・・・。

 半信半疑のまま翌日僧侶に来てもらいお経を唱え、火葬とした。裏の山に墓石を用意し遺骨を納めた。

 その夜ウーフメの霊が現れ、陶器の作り方を教わる。こうして一週間が経った。

 ―あとは実際売ってみて。きっと高価なものになるはず。

 老夫婦はためしに売ってみると「これはかつてここでいっぱい売られていた高級陶器じゃないか!」と大評判。

 こうして大隅国の天邪鬼から作り方を教えてもらった老夫婦はさらにお金持ちになって幸せに暮らしたとさ。

 

後日談

 

 天邪鬼国王ザメがはるばる出雲の国から雷の魔石を借り受け母国に戻った。しかし王宮は荒れ果て誰もいない。それどころか隠れ蓑で姿を隠してよく見ると天邪鬼の技術のはずの陶器を人間が作っていた。

 -そんなばかな!?

 荒れ果てた王宮に戻り声をかけるも誰もいない。

 「どうなっているんだ!?」

 そこに天邪鬼が農作業から帰って来た。

 「おい!居たぞ。国を捨てた逆賊の王が!!」

 「殺せ!!」

 こうして廃墟の王宮に剣が交わる音が響き渡る。

 しかし多勢に無勢。ザメの腹部に剣が貫かれる。こうして大隅国の天邪鬼の王族は死に絶えた。そんなときザメの懐から雷の魔石が落ちた。

 「そんなばかな!?王は国を見捨てたわけではなかったのか!?」

 こうして大隅国の天邪鬼の王政は終わりを告げた。後に大隅国の天邪鬼は共和制となり作る物もサツマイモを加工した食品を売り生計をたてたそうな。

 

 

 

元伝承

 

 鹿児島県伝承「ウーフメ」に基づく

 

勇者瓜姫小次郎

 

序章

 

 鬼の軍団が美濃の山城を攻めていた。攻める方は巨大な一つ目鬼。立ち向かうのは小柄な赤鬼だ。城は攻め落とされようとしていた。

 「王子だけでも逃げるんだ。セイ、お前にこの子を、カイを頼む」

 「このままじゃ美濃の天邪鬼族は壊滅させられてしまう」

 「王、このような事態となり申し訳ございません!」

 「そんな事言ってる場合か!」

 王から渡されたのはまだ赤子の鬼だった。

 「いざというときは一時的にわが子を人間に化けさせて人間に育ててもらう」

 「ごめんね、カイ・・・。こんなお母さんで」

 泣き崩れる母。

 「御意」

 そういうと裏口に出てセイは赤子を抱えて逃げる。しかし道中で敵の矢が次々セイに刺さる。

 このまま俺たちは死んでいくのか・・・?

 「すまぬ、カイ。お前にはこの方法でしか救えぬ」

 そういうとセイは呪文を唱える。カイの腕に光が突き刺さり痣が出来た。なんということであろうか。カイの角が埋まり皮膚が人間の色と同じに変化するではないか。

 それからセイは川を探し箱にカイを載せた。

 「人間に面倒見てもらえ。すまぬ。お前は王子なのにこんな思いをさせて」

セイはその場で力尽きた。

 それからしばらくして川から流れていく箱に赤子が載せられたのを老夫婦は見た。その子は天の授かりものとして大事に育てることにしたのだ。たまたま拾った場所が瓜畑の横の川だったのでその子の名前を「瓜小次郎」と名付けた。長男太郎は流行病で亡くなったのでまさに天からの授かりものと老夫婦は思ったのであった。

これは美濃の国に伝わる勇者の物語。

 

第一章

 

 瓜小次郎はすくすくと成長した。しかしその姿は白面の美男であった。艶やかな黒髪を結い上げ面立ちは端正。切れ長の瞳を持ちまるで女の子であった。老夫婦はいけないと思いながらもとうとう誘惑に負け小次郎に化粧をしてみた。仕上げに口紅を塗った。するとますます美しい姫のような姿になった。老夫婦はわが子小次郎の美貌に魅入った。

 「お前は今日から『瓜姫小次郎』じゃ!」

 こうして男にもかかわらず「姫」と名が改めて付けられた。最初はその姿と名前からいじめられるも怪力を持つ瓜姫小次郎は次々と近所の子を投げ倒した。やがて瓜姫小次郎に近づく男の子は居なくなった。

 瓜姫小次郎は当初自分の陰部を見て泣いたがやがて自分の姿を誇りに思うようになった。なぜなら逆に女の子のあこがれの的となったからだ。瓜姫小次郎はやがて女の子と遊ぶようになった。

 母親が病弱になったことをきっかけに瓜姫小次郎は織機で織物を作った。瓜姫小次郎は必ず化粧をして身も心も女になりきってから心を込めて織った。その織物は大変美しいと評判だった。しかしそんな瓜姫小次郎に対する風当たりは強かった。気味悪がられるようになった。やがて女の子も瓜姫小次郎に近づかなくなった。それだけではない。鬼同士の大規模な戦いが起きたばっかりだった。人をさらう鬼に会うかもしれぬ。あまりに不憫に思った老夫婦は外で武芸に励む時以外瓜姫小次郎の外出を禁じた。

 そんな中生き残りの天邪鬼が人間に化けていた。浪人のキイであった。「面妖な男とも女とも見える男がいる」との評判を聞きつけ、老夫婦の家にたどり着いた。

 「ここを開けておくれ」

 しかし決まって返事は…

「悪い鬼がいるかもしれないから駄目」

 であった。しかし、外で武芸をしている瓜姫小次郎をキイは見つけた。そして腕の痣を見た。

 -ま、まちがいない。カイ王子だ!

 そこで遠くから解除呪文を唱え、カイ王子に光を浴びさせた。

 すると瓜姫小次郎の皮膚が赤くなり角が伸びて行った。鬼になっても男と女の両方の魅力を併せ持つ美貌の剣士の姿であった。

 「なんだ、これは~!」

 「王子、カイ王子でございますね!」

 「違う。俺の名前は瓜姫小次郎」

 そういうとキイは呪文を唱え本性を現した。

 「王子、その痣とその姿が証拠。あなたは天邪鬼族の亡国の王子、カイ王子でございます」

 「そ・・・そんな!」

 「申し遅れました。私の名前は衛兵のキイ。もっとも今では浪人ですがね」

 

第二章

 

 とはいえたった2人で美濃の天邪鬼族国を再び建国することは出来ぬ。そこで普段は瓜姫小次郎になりすまし武芸に励んだ。育ての親への感謝も忘れなかった。本当の父の名はサイ、本当の母親の名はメイという事もキイから聞かされた。

 王子が生きていたという話は瞬く間に隣国に逃げ込んでいた天邪鬼らに伝わった。特に飛騨に逃げた天邪鬼らにとっては朗報であった。カイは老夫婦の隙を見てはキイからもらった隠れ蓑で空を飛び、飛騨の天邪鬼の根城に通った。結界を抜けて中に入るカイ王子。王城内で歓声が沸き起こる。飛騨の天邪鬼の王であるトレ王に謁見する。

 「なんと、父親譲りの美貌よの」

 「その言葉、ありがたき幸せ」

 カイ王子は美濃で覚えた織機をここで作り、かつ織ってみせた。するとこれまたたまたま飛騨の山城に訪ねていた美濃の隣国三河に逃げていた天邪鬼から提案があった。

 ―この仕組みなら魔力を込めれば自動で織ることができるはず。

 何と人間が自動織機を発明する500年以上も前に天邪鬼は自動織機を発明した。もっとも雷の魔石がないと動かないので貴重な自動織機となったが。

カイ王子こと瓜姫小次郎のあだ名は「織機王子」というあだ名が加わった。自動織機で織られた着物は品質、価格ともに人間が作ったの織物よりも上等であった。こうして人間からお金を得た天邪鬼は次々武装していった。その鎧は異形そのものであった。全部が黒鉄で覆われていたのであった。それでいながらまるで重さを感じさせない。魔力を帯びた鎧だった。魔石は幸いにも飛騨の山中にある。鉄と魔石を高熱で溶かすことによって実現した。闇色の面頬を付けると暗黒の武者そのものだ。魔石の粉を塗った面頬を付けると己の声も変わった。文字通り闇色の声であった。敵を葬るにふさわしい姿と声となった。

―この鎧なら一つ目鬼の金棒にも耐えられる。

 いよいよその時が来た。奪還する時が。両親の無念を晴らす時が。

 当然一つ目鬼側が黙って居るわけが無かった。偵察隊がカイ王子を見つけた。天邪鬼の城を奪って得意になっていた一つ目鬼族のカン王はその話を聞くと持っていた盃を叩き割った。食堂に居た鬼は全員凍りついた。

 「殺せ!!奴が人間に化けているときがチャンスだ!」

 

第三章

 

 カイは人間に化け、老夫婦の家に戻った。しばらく旅に出ると書き記していた。口実は『もっといい織機を探す』ということにした。そんな時扉から声がした。

 「王子、作戦の話でお話が」

 こんなことを知っているのは同じ天邪鬼族に違いない。カイは扉を開けた。屈強な男であった。

 さっそく2人で家を出て作戦の話を確認する。話し終えると・・・

 「そいつはいい話を聞いたぜ」

 言うや否やその男から煙が生じ正体を現す。なんと巨大な一つ目の鬼ではないか!

 「隙あり!」

 なんと縄がどんどん己を縛り上げていく。

 男は近所の柿の木にカイをつるし上げる。

 男は呪文を唱えると黒色の煙が生じる刀を生じさせた。

 「王子、お命頂戴!!」

 しかしカイも解除呪文を唱え己の本性を現し、縄を呪文で切った。地面に着地し、一つ目の鬼の足を攻撃する。崩れたところ、妖刀を奪う。そして逆に一つ目の腹を切り裂き、さらに目を突き刺した。一つ目鬼は絶命した。

 その時、別の気配を感じた。人間だ!!

 「しまった。見られた!」

 そういうと王子は急いで山に逃げた。

 育ての親正次郎は見てしまった。瓜姫小次郎が鬼になった瞬間を・・・。

 背負っている籠から薪を落とす。乾いた音が木霊した。

 「そんな・・・ばかな・・・」

 

第四章

 

 いよいよ一つ目鬼族が占拠している美濃の城を奪還する時が来た。天邪鬼らは闇の鎧を着て闇の面頬を付ける。カイは白色の魔法の粉で塗った髑髏の文様を施した面頬を付けた。我は死神なのだと敵に知らしめるためだ。

 総大将はもちろんカイだ。闇に浮かぶ白の髑髏の面頬は総大将の印にもなった。

 「親の敵を討つ!」

 闇の鎧は金棒の攻撃を最小限に抑えた。もはや敵では無かった。次々に撃破されていく一つ目鬼族。そしてとうとうカン王を捉えた。カンが手足を縛られたまま本陣に連れて来られる。カイはカンの姿を見て面頬を付けたまま喉をならす。笑っていたのだ。

 ―こいつが親の仇。こいつが俺の人生を狂わせた男

カイは獲物を目の前にしてあまりの嬉しさに笑いが止まらない。

 「覚悟はよいな?」

 「さっさと殺せ!」

 「我は死神。その言葉の望みをかなえてやろう」

 死神は闇の刀で首を飛ばし、さらに血肉を細切れにした。嬉しそうに肉を切り刻む。闇の鎧は返り血で赤の斑模様が加わった。死神は事を終えると細切れにした肉を皮袋で包み近所の川に肉を撒いた。

 面頬を取るとカイはその場で泣いた。本懐を遂げたはずなのになぜか心が虚ろになっていった。

 ―こいつを殺したっておとうさんやおかあさんが生き返るわけじゃない!

 周りは数が少ないものの総大将が慟哭する姿を見て動揺が走った。

 ―いかん。俺は総大将なんだ。

 カイは友軍に己の泣き顔を見せないよう面頬を再び被った。

 本陣に戻るとカイを勇者、勇者とたたえていた友軍の姿があった。

 カイは奪い取った城を凱旋した。傍目から見たら返り血を浴びた残虐無比な死神の姿そのものである。だがその死神が泣いていることに誰も気が付かない。死神は玉座に着いた。そしてこう宣言した。

「我、国を奪い返したり!」

大歓声が起きた。

 少年にも関わらず己の恐怖に打ち勝つべく髑髏の文様で己の顔を隠し、国を奪還した英雄としてカイは勇者と称えられることとなった。

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 カイは一つ目鬼族が持っていた宝の一部を育ての親にあげてから人間界を去るつもりでいた。カイは瓜姫小次郎に化けて隠れ蓑を置きいつもの家に帰った。しかし、両親の顔は険しい。

 「これ、とうさんやおかあさんにあげたいんだ」

 それは数々の宝玉であった。だが。

 「要らんわ、この妖怪めが!」

 「おまえが鬼という事はもうばれてるんだよ!」

 「おとうさん、何を・・・」

 「わしゃ見たんだ。お前が別の鬼に柿の木に吊るされたときお前が本性を現すところを!」

 「出て行け!」

そういうと正次郎はお札を投げた。

 カイは肩に札を当てられやけどした。しかも人間に化けていた呪文は解除されていく!

 周りには潜んでいた妖怪退治の僧侶がずらっと並んでいた。

 「悪霊退散!」

 「親父!!」

 「わしを親父と呼ぶでない!!」

 その時、隠れ蓑を脱ぎ姿を現した鬼が次々と僧侶を切り殺した。倒れゆく僧侶。

 「キイ!」

 「カイ王子、人間なんて所詮こんなもんなんです、去りましょう」

 カイは泣きながら宝玉を持ち、その場を去った。

 老夫婦は震えながら床に座り込んだ。

 

終章

 

 美濃の山城を奪還したカイは儀式を経て正式に王子から王となった。カイは王となってからも女性の服を着て化粧をする。本能がそうさせるのであった。カイが女装するたびに己の下半身が張り上げる。自分は男なのだということを体は主張しているようだ。こうして己からこみあげる快感に酔いしれながらカイは女装し続けた。特に女装して踊りを披露した。逆に謁見の間に座る時などは男の美をこれでもかと追及した服装で現れた。まさに妖美であった。

周りの天邪鬼は女装した王の姿も美しいため男女関係なく魅惑に取りつかれた。

 ―まさに天邪鬼の鑑のような方じゃ

 天邪鬼は右を向けと言えば左を向くようなわざと刃向うことをする時がある。しかしカイは男でありながら女でもあるという究極の天邪鬼であった。

 カイは王城で衣服のコレクションも開いた。美濃コレクションと呼ばれたこの大会は隣国どころかはるか関八州の天邪鬼の国々にまで轟いた。しかしなぜか関が原から西の天邪鬼は興味を示さなかった。

 コレクション開催時になると王城で華やかな衣装が次々披露されていった。

 そんな暮らしを送っていたある日、カイは城内である者に目が留まった。良く見れば男装姿でコレクションに出ていた天邪鬼ではないか。雑用係の女性であった。 

 ―なんて美しいんだ

 ―この人とならば私の苦しみも理解出来るのでは・・・

「あの・・・そなたの名前は何と言うのじゃ?」

「私の名前はレイと申します」

 2人が結ばれるのに時間は掛からなかった。

 結婚式は前代未聞の式となった。女装したカイに男装したレイが神の前で誓いを言う。国中の天邪鬼は一斉に黄色い声を上げた。

 美濃の国は以後天邪鬼らが作る衣服のおかげで衣料の一大生産地となった。人間はこれらの衣料は天邪鬼が作ったとも知らずに。

 さて、カイとレイとの間に生まれてきた子はケイと名付けられたがごく普通の男の子として成長した。両親カイとレイの男装・女装に呆れながら・・・

ーけっ!俺はあんな変態オヤジ、オフクロになってたまるか!

 ケイは物心つく年齢になるとことあるごとに両親を嫌悪するようになった。

 両親はそんなわが子を見てこう思ったのであった。

ーああ、うちの子は立派な天邪鬼だな。後継ぎは大丈夫そうだ。

 特にカイは己の肩の火傷の痕を見るたび、育ての親に裏切られた心の痛みを思い出し、息子には同じ思いをさせぬよう愛を注いだ。たとえ息子は自分の事を嫌っていようとも。

 めでたし めでたし

 

元伝承

 

 岐阜の瓜子姫伝承に基づく。日本で唯一と呼ばれる「男の子の瓜姫伝承」でかつ鬼退治伝承でもあるが、筆者は常に疑問に思っていた。もちろん室町時代に発生した瓜子姫伝承のパロディーから生まれたものであろう。それに既存の物語は「瓜子姫が活躍しないではないか」という思いから生まれたものでもあろう。しかしならばなぜ名前が「瓜小次郎」ではなく「瓜『姫』小次郎」という「姫」という名前を男の子にも関わらず付けたのであろうか。それはやはり主人公は男でありながら「姫」だったのではないだろうか?という疑念に基づく。また桃太郎でもそうなのだが老夫婦は決して鬼退治の褒美等を喜んではいない。それはなぜなのかという事もよく考えてこのような二次創作とした。

天邪鬼の力を使った瓜子姫

 

序章

 

 天邪鬼の少女は新しく出来た人間の家を偵察していた。今の所危険性はないがいつ鬼の領地を侵略するかわからない。このため隠れ蓑を着て、姿を隠して偵察していた。この地域はコメが取れるものの冬は豪雪地帯の為生きるのは厳しい。

 家から声が聞こえる。娘はせき込んでいるようだ。

 「せっかく拾ってやったのに病人になるなんてな」

 「お前の織物が売れなくなったらもう一回捨てるよ?薬代も掛かるし」

 ―ひどい

 織り機の音が聞こえる。そっと戸をあけて覗いてみた。

 ―なんて可憐な少女なんだ。

 自分も同じ女の子なのに思わず魅入ってしまった。

だが、次の言葉で天邪鬼は怒りを覚える。

 「悪い鬼が来るから戸は開けるなよ。戸が開いているぞ」

あわてて逃げる天邪鬼。隠れ蓑を着てなければ今ごろどうなっていたことか。

 これは越後の国に伝わる悲しい物語。

 

第一章

 

 天邪鬼の少女ソラは以来、ここの家に来るようになった。 「戸を開けておくれ」と言っても「あなたは悪い鬼でしょ。だめ」と言う声しか帰ってこない。そのたびにソラは「少しだけでいいから」と言ってそっと戸をあけてもらうと柿の実や花をそっと置いて去っていく。思いが通じたのかある日突然戸が開いた。

「あなたがいつも物を置いていく鬼なのね・・・」

 その姿は赤鬼の可憐な少女だった。

「私の名前は瓜子姫」

「私の名前はソラよ」

以来近所の柿木で会話する事が多くなった。瓜畑に捨てられていたから「瓜子姫」と名付けられたこと、拾ったのは老夫婦だということ、流行病で次々この地域の人が死んでいることであった。でもあれと思った。鬼族には病気にかかった者など居なかったからだ。

「えっ!鬼さんたちは病気にならないの?」

「ならないよ。なにが原因なんだろうね」

「おっと偵察から帰らないと。じゃあな。」

ソラが帰ると仲間の偵察部隊が次々と同じことを言う。

「俺たちにも感染しないのだろうか」

「不気味だ。人間だけに感染して鬼には感染しない」

「特徴は『咳が出る』か・・・」

ソラは思わず提案する。

「あの・・・人間連れてきて診察ってやっぱダメっすよね・・・?」

この提案に対してリスクが多すぎるという提案もあったが最終的に診ない事にはわからないとなり連れていくことにした。

 

第二章

 

 ソラは祖父母が出るのを確認してから家に入る。

 「病気、お医者に診せようか」

 「でもお金が・・・」

 「大丈夫だよ。でも鬼の村に行くけど大丈夫・・・?」

 瓜子姫は怖くなった。私を食べる気なんだろうか・・・

 「その顔を見ると食べられるかもとか思っているよね?」

 「そんなことないわ!」

 「嫌ならいいんだよ、別に」

 「でも・・・こんな生活嫌。出来るなら治したい」

 「なら決定だね」

 ―翌日ソラは瓜子姫の分の隠れ蓑を持ってきて、空を飛んで鬼の村に到着する。瓜子姫の飛行はふらふらだ。

 診察した鬼のキラは絶句した。

 -なにかの病魔に侵されている。血液ごと替えないとこの子は助からない

 診察結果に驚いた瓜子姫。

 「助からないの?」

 「いいや、1つだけ方法がある」

 「それは?」

 「このソラが瓜子姫に乗り移って、病魔を撃退する」

 「ええっ!」

 「4か月間ね」

 「それ以上ずっと乗っ取ってしまうと君の精神が消滅する。」

 「しかも乗り移ったとしても成功するとは限らない」

 「そんな・・・」

 「でもこのままだと長くは持たないよ・・・」

 里まで一緒に旅するソラと瓜子姫

 「よく考えてね・・・一生の事だし」

 「うん・・・」

 その夜、織物の出来が悪いと怒号が飛んだ。

 

第三章

 

 農作業で祖父母の居ないときにソラは瓜子姫の家にやって来た。

 「どうするの?」

 「あなたの力を借りるわ・・・。いいわ。乗っ取って」

 「本当にいいんだね?」

 「後悔しないんだね?」

 「それと重要な事言ってないけど、通算5か月以上乗っ取ったら君の精神を僕が食い尽くしてしまうんだよ。この『乗っ取りの術』は一度君の体はなれたらまた4か月延長できるというわけじゃない。あくまで通算だからね。」

 「え?」

 「しかも完全に君を乗っ取った後で僕が本性を現す場合は寄生虫のように君の肉体の中から割って僕が飛び出す・・・。そういう残酷な術なんだ『乗っ取りの術』って。期日内だと単に透明な姿で分離するけど」

 「だから本当に、僕が君に乗り移っていいんだね?」

 「それと乗り移った後はあんまり人前でしゃべらないでね。独り言に聞こえるから。つまり頭おかしい人に見られるよ。」

「もう一回言うけど本当にいいんだね?」

「うん!」

じゃあ待ってて。君の手を握るから。

「こうでいいの?」

お互いが手を握った。

「目をつぶって。決して僕を見ないで。」

そういうと呪文を唱えながらソラの周りが渦巻く。するとどんどんソラが透明になっていく。

 そして透明になったソラは瓜子姫に重なるように動いた。さらに呪文を唱えると微妙に重なっていない部分がぴったりおさまった。こうしてソラは瓜子姫を乗っ取った。

 ―あ!!すごい!!

 「だーかーらー!しゃべるなって!」

 「ちなみに肉声こそ君の声だけど言葉を発する意思を持つのは僕だけだよ。だって僕は君の肉体を乗っ取っているんだもん」

 「さあ、今日から僕は君になるよ」

こうしてソラは瓜子姫を乗っ取った。

 ソラは隠れ蓑を使って人間には到底行けないような場所にも旅をした。

 「これが、谷川岳の頂上だよ」

 ―す、すごい!!

越後国はもちろん天然の壁で向こうの国となっていた上野国まで見える。鬼たちが普段見ている光景のなんとすばらしい事か。

「ぼくたちは文字通り天空に住む鬼、天邪鬼なのさ」

ソラは、いや瓜子姫は以後毎日のように越後の国中を旅した。瓜子姫が見たことのない景色、光景を見て回った。

--------------------------

 鬼の村では針が付いた筒で瓜子姫の血を少しだけキラに抜き取ってもらった。

 「これで瓜子姫の病気の正体が分かるかもしれん」

鬼のキラは少し安堵の表情となった。

 「しかもソラの力で動き回っているから瓜子姫は見かけ上まったくの健康体だ。」

 「でも気を付けて。あくまでこれはソラの力。決して瓜子姫の本当の力じゃないよ」

 ―はい!

 「『はい』って本人言っているよ」

 「お大事に」

 祖父母の暴力に対しては手を素早く抑えるなどソラは防御に徹した。

 「おまえ、最近咳しなくなったな。病が治ったのか。結構な事だ」

 本当はこの時鬼の怪力でこの祖父母の指をつぶそうかと思ったが、正体がばれるのであえてしなかった。

 鬼の怪力を使って織機を直した。すると織物の出来がどんどんよくなっていく!

 とんとんからり、とんからり・・・

 織機のきれいな音が響き渡る。熟練者でなくとも織れる織物と織り機の評判は越後国の殿様の声にまで届いた。

 

第四章

 

  やがて4か月経った。ソラは呪文を唱え瓜子姫の体から離れた。ソラは透明な姿となって瓜子姫から分離してやがて実体を現した。

 しかし、翌日に瓜子姫は再び咳が出るようになった。瓜子姫は結局鬼のキラに診てもらうことにした。

 「これはきゅうり病という珍しい病気だよ」

 「え?なにそれ!?」

 「小さい傷口からきゅうり菌というものが入って最後は人間がきゅうりになる。」

 瓜子姫はおかしくて笑った。そんなことがありえるものか。

 「瓜畑に捨てられたと言ったよね。きっとその時きゅうりの特殊な菌が君に入ってしまったに違いない。そしてゆっくりと増殖した。」

 「信じてくれないかもしれないが、ほかの人間はいわゆる普通の流行病だった。でも君だけ菌が違ったんだよ」

 「そんな」

 「この病はたとえ鬼が乗り移っても進行を食い止める事しかできない。それは人間の死を意味する」

 「ソラは瓜子姫の最後を見てやってくれ」

 瓜子姫は泣いた。ソラは一緒に瓜子姫の家まで送った。

 「瓜子姫、僕らは一生友達だよ。一生ね」

 「うん・・・」

 だが瓜子姫はソラが離れた後信じられない声を聴いた。

 「長岡藩の殿様の使いの者が来て瓜子姫を嫁がせてほしいと言ってきた」

 「これで持参金もらえて一生楽に暮らせるぞ!」

 ―そんな!!

 織機や織物を見て来るお客は絶えなかった。だが、こんなことになろうとは。

 翌日、瓜子姫は正式に祖父母から殿様への婚姻の件を聞いた。病気の事を伝えても殿様に信じてもらえないだろう。どうすれば・・・

 午後、ソラは瓜子姫のところに見舞いにやってきた。そして瓜子姫から話を聞くと絶句した。

そして瓜子姫の背中を見せてもらった。ほんのわずかだがすでにきゅうりのような皮が広がっている。

 「瓜子姫、僕はもう見てられない。ぼくはこの件について鬼の長と相談してくる」

 ソラは鬼の村に戻った。長老のカラは事の顛末を聞いた。傍には医師のキラも一緒だ。

 「よいチャンスだ。瓜子姫の体を奪って人間の殿と結ばれればよい。」

 「その子は鬼の血を半分は引く子となる。その子が生まれた時にわが天邪鬼軍が全力でもって長岡城を急襲する。そうすればいずれ越後国全土は鬼のものよ・・・これで迫害されている天邪鬼は山でなく堂々と街に住める」

 「ソラよ、わかるな。お前の日々の偵察の成果が実ったのだぞ。人間と鬼が共存できる国の建国。いよいよ我らの念願の実現の時が来た」

 「はい、長老。必ずや成功してみせます」

 ソラは牙を見せてにや~と笑った。

 

第五章

 

 ソラは瓜子姫の家にやって来た。もう瓜子姫は寝込んでいた。こんな状態なのに瓜子姫は殿様に継がせるという。人間とはなんと非情なのか。

 「ソラ、私あなたに喰われたい・・・」

 「私の体、乗っ取ってもいいよ・・・」

 「ありがとう。その言葉待っていたよ。でも今度は徐々に君の精神を食いつぶす。本当にいいんだね?」

 「当たり前じゃない。どのみち私死ぬんだし。私、きゅうりになるなんて嫌だわ」

 涙が頬を伝う。

ソラは瓜子姫の願いを聞き遂げると例の呪文を唱え、瓜子姫を乗っ取った。やがて祖父が帰って来た。布団を見て言う。

 「また寝ているのか、この役立たず」

 祖父の平手打ちが来たが己の手でまたも跳ね除けた。

 「今度こんな事してみろ?殺す」

 と、祖父の胸倉を掴みながら吹雪の声でソラは言った。

 祖父はあわてて逃げた。

  ―ありがとう・・・

ソラはその後も瓜子姫と会話するがもう瓜子姫は言葉がとぎれとぎれになっていた。

 ―わたし・・・あわせ

 「ぼくもだよ」

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 ある日、祖父は農作業に出たふりをして瓜子姫を外から監視した。この時ソラはせめて瓜子姫の最後を見届けるため妖力を引き出してお互い会話をしていた。瓜子姫の周りには闇色の陽炎が生じていた。瓜子姫の影に、頭頂の影の部分には角が出ていた。

 ―ソラは実は私の事を利用してたんだよね?

 ―バレてたのか

 ―でもね、私を救ってくれたのも貴方なのよ。しかも親友と呼べるのはあなただけだった。

 ―ごめんよ・・・本当にごめん

 ―謝ること無いわ。ちゃんと子供立派に育てるのよ。殿様の子どもなんだから。

 ―約束は守るよ。

   ソラは瓜子姫の願いを聞き遂げると心置きなく己の体内で目覚める瓜子姫の意識を闇色に塗りつぶした。闇は、ソラの心は瓜子姫の心を味わい尽くす。光が消えると瓜子姫の体内の血肉が踊り狂い体のあちこちで凄惨な音が響き渡る。こうしてソラは瓜子姫の体を完全に乗っ取った。瓜子姫だったものは何度も拳を握り返し首をひねって己の体を確かめる。最後ににたりと笑みを浮かべて己の体から生じている闇色の陽炎を消した。

―鬼!!

祖父はこの光景を見て腰を抜かした。夜にこっそり妻のばあやに鬼の影の事や瓜子姫の血肉が踊り出した事を話した。

 「近所の神主に聞いてみるべ。たしか鬼なら真実の鏡が照らして鬼の力を削ぐはず」

 祖父は近所の神社に行き、事の顛末を言うと真実の鏡を借り受けた。祖父は鏡の光を瓜子姫に化けてる鬼に当てるチャンスを数日間うかがった。

 ソラは乗っ取った瓜子姫の体にようやく体がなじんだ。そんな時である。もう殿様に嫁ぐ日が迫っていたある日の事。

 「瓜子姫や、もう婚姻の儀が迫っておる。お化粧するのじゃ」

 そういって真実の鏡を瓜子姫に見せた。

 真実の鏡が輝きだし、瓜子姫の顔に真実の光が当たると瓜子姫は悲鳴を上げた。

 祖父母はあまりのことに一部始終見届けてしまった。まず瓜子姫の額に縦のひびが生じ、やがてひびが躰全体に伝わる。やがて体中から血しぶきをあげ瓜子姫だったものがめきめき音を立てながら衣服ともども横に割れた。その瓜子姫の体内に子供の鬼が居たのであった。鬼のこめかみから瓜子姫の体に通じていた神経の束と喉と喉を繋ぐ管、大腸と大腸を繋ぐ管が切れて溶けるとすばやく繋ぎ目部分の穴が消えて行く。鬼は瓜子姫の体に通じていた神経の束が切れ、己の頭髪がすべて失っているのを手で確認し、さらに瓜子姫から通じていた喉が塞がれ、己の尻から出て瓜子姫に通じる腸管が塞がれているのを手で確認した。次に己の口、鼻、耳を覆っていた鱗を手で剥がし、そして眼を覆っていた鱗を手でそっと剥がして瞼を開けた。鱗を剥がすたびにめりめりと大きな音がする。最後に鬼はまだ己が纏っている瓜子姫だった手足の皮と血肉を剥ぎ終わってからうれしそうに悔しさをにじませながらこう言った。

 「見たよな?」

 ソラは2つに割れた瓜子姫の死体を確認するとにた~と笑みを浮かべて裸のままこの場を逃げ出した。祖母が卒倒する。だが鏡の光の威力はこんなものではなかった。祖父が鏡の光を逃走中のソラに当てる。さらに悲鳴を上げソラがつまずいた。この光は鬼の力を無効化するものであった。なんとソラの体がどんどんきゅうりの皮に覆われていく。鬼の力を失ったソラは瓜子姫を通じて感染したきゅうり菌に抵抗する力を失った。こうして天邪鬼のソラはきゅうりとなった。

 この話は越後国に瞬く間に伝わり、鬼族に支配される寸前だったところを食い止めた勇者として殿は祖父母に褒賞を与えたという。そればかりかこのきゅうりは大変おいしいと評判で種が出回りやがてきゅうりは越後国の新しい名産品となった。逆に鬼族、特に天邪鬼は越後国を支配する千載一遇のチャンスを逃し、悲嘆にくれたという。

 

元伝承

 

 新潟県版「瓜子姫と天邪鬼」に基づく。ただし、「瓜子姫を乗っ取ったが正体が祖父母にばれて天邪鬼が逃げたが転び、天邪鬼が転んだ時にきゅうりになった」という話は全国でも1例しかなく、基本的に新潟県内の「瓜子姫と天邪鬼」は東北の説話群に準じる。今回は全国でも1話しかない新潟説話の「瓜子姫と天邪鬼」をライトノベル風に書き起こした。

肝を食われた狐

序章

 

 ここは武州川越。舟運で栄えた街である。そんな川越の街で最近妙な噂がとびかった。

 「最近臨終間際の人間の横に白狐様が現れて肝を食われるらしい」

「なのに傷跡がないらしい」

「胸を貫き刳いた後うまそうに肝を食っている白狐を見た」

そんな噂が飛び交っていたのだ。これは江戸時代に伝わる武州の不思議なお話。

 

第一章

 

 白狐のコトは人間の肝が大好きであった。妖狐は生きている人間の肝を食うことが禁じられた代わりに死んだ人間の肝を食うことが許されていた。そのためコトも人間が死んだ直後の新鮮な肝が大好物であった。

 コトは稲荷神社でいもの豊作を願う少女の願いを聞いた。ここは8代将軍吉宗が新田開発した場所である三富に近い。コトは神通力で少女に伝える。

 ―その願い、かなえてやってもいい

 「えっ!?」

 ―その代り少々の代償が伴うぞ?

 「あ、はいっ!」

 少女が嬉しそうに稲荷神社から走り去る。

 少女の家の近所に臨終間際の老人が居た。

 その家に突如人間に近い姿でコトは姿を現す。

 「おまえさんは・・・!」

 「すまない。近所の子がそなたを生贄として要望した。安心するがよい。そなたの肝は死んでから頂くとする」

 その言葉に耐え切れなかったのか老人は息を引き取った。コトは生贄が死んだのを見届けると老人の胸を貫き、肝を抉り出す。そしてうまそうに肝を食う。

 「なかなかの美味だ」

 コトは肝を食した後に抉った箇所に手を当てると死体の傷が一切消えた。そしてコトは瞬時に消えた。

 このありさまを家の壁の穴からそっと見ている人間がいた。

 コトが居なくなるとやがて大声を出した。

 「で、出た~!」

 

第二章

 

 妖狐が人間の肝を食うという噂はたちまち瓦版を経て一気に川越中の噂になった。それだけではなかった。

 ―人間の肝を食った狐の肝を食うと長寿になるらしい

 コトはそんな噂を聞き流すかのように三富の大地に呪力を放つ。

 ―これでさつまいもの実も大きくなるであろう。

 川越の商人は廻船問屋を介して江戸へいもや狭山茶を運ぶ。ますます川越は豊かとなり商売繁盛となった。

 コトは夜の川越の街に狐火を出して人間に警告を発した。それでも人間の噂が止まらなかった。コトは東松山稲荷大明神である箭弓に仕える妖狐であった。噂は当然箭弓の耳に入ってしまい、東松山の箭弓稲荷神社へ出向くと主の箭弓から「人間に気を付けるのじゃ」という警告を受けた。

 「ところでコトよ今日は例の物を持ってきたかえ?」

 「こちらに」

 コトが桐の箱を開ける。それは人間の肝を干したものであった。コトは桐箱をうやうやしく箭弓の前に差し出す。

 「これがないと我々の呪力が回復せぬからの」

 肝をうまそうに咀嚼しながらうれしそうに言う箭弓。

 「箭弓様、お望みとあらばもっともっと人間を狩りましょうぞ?」

 「何度も言うが人間に気を付けるのじゃ。あやつらの力をなめたらあかん」

 「はっ」

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 コトは肝を食ったあとに人間にはお礼を返していた。そのためか川越の稲荷神社は参拝客が絶えなかった。コトは江戸の王子にある稲荷神社に出かけては仲間の妖狐らと共に人間に化けて江戸の街で遊ぶこともしばしばであった。当然、肝を食う時も・・・。狐の姿で川越に帰るのは危険なので人間の姿で舟に乗って川越に帰る。たった3時間で江戸から川越に着くのでそのほうが楽でもあった。そんな時に仲間の稲荷からとんでもないことを聞いた。

 「飢饉が来るぞ。人間の肝をいっぱい食えるな」

 

第三章

 

 天保の大飢饉は東北の穀倉地帯を中心に襲った。東北だけでなく関東にも飢餓が襲う。コトは肝を食う事はうれしいのだが、餌となる人間が減少しては困るので大地に呪術を放つ。幸いさつまいもは冷害の時にも強い。だが人間は恐怖におびえた。死ぬ間際に妖狐が着て肝を食うと。もっともコトは肝から得る妖力が無いと長生きできない。あと300年は生きられるので、若いうちに妖力が尽きて死にたくなかった。やがて飢饉は収まり江戸も小江戸川越も落ち着きを取り戻した。文政6年、コトは白狐の姿のまま雪の日に出る。白狐にとって雪の日は雪から呪力を得られる特別な日なのだ。しかし、このチャンスを街の人は見逃すはずが無かった。木刀を持って隠れる町の衆。コトは安心しきっていた。雪とじゃれあっていた。その時。

 「今だ!!」

 周りから木刀で次々殴られるコト。そして自分が今までしてきたことを人間に去れる時がやってきた。狐の悲鳴が木霊する。コトはこのとき最後の呪文を唱えた。

 「やったぜ!これが狐の肝だ。3人で山分けだ!」

 3人は狐の肝を食った。3人の力がみなぎる。3人の体に異変が起きたのはすぐだった。うめき苦しみ倒れる。それだけでなかった。川越中で狐火が出るようになった。

 ―仲間を殺すとはいい度胸だ

 その後、川越では毎日のようにおどろおどろしい声が飛び交った。川越中で大パニックとなり、やがて川越の町人は雪塚稲荷神社を作りコトの怨霊を沈めたという。人間らが反省しているのを見て妖狐らは病魔を川越に振り撒くのを辞め、また狐火を出すのも辞めたと言う。

 

 元伝承・解説

 

 武州川越の通りに一匹の白狐が迷い現れた。これを見た若い衆数人が白狐を追い回し打ち殺し、白狐の肉を食したところたちまち熱病にかった。さらに毎夜大きな火の玉が街に現れるようになった。川越城下町の者はこれを白狐の祟りだとして恐れ慄き、そして死んだ白狐の皮と骨を埋めて塚を築いた。川越町民は雪の日の出来事であったことにちなんで、「雪塚稲荷神社」と名付けて奉斎した。1980(昭和55)年に雪塚稲荷神社から石版が発掘された。その石板には「文政6年2月12日御霊昇天」と刻まれていたたことからこの出来事は(狐火はともかく)史実ということが判明した。1823(文政6)年ということは今から約200年前の出来事である。

 2018(平成30)年現在の川越では「川越妖怪ツアー」が不定期で開催されており、ナイトツアーの「川越妖怪ツアー」で雪塚稲荷神社へ訪れることも出来る。しかし、普段は観光客でにぎわう大通りの横にひっそりと雪塚稲荷神社へ向かう横道があるが、ほとんどの観光客はこの横道の存在に気が付かないため雪塚稲荷神社まで観光客はめったに来ない(雪塚稲荷神社の知名度も大変低い)。このため雪塚稲荷神社は知る人ぞ知る川越妖怪伝説の地となっている。

 妖狐が人間の肝を食うという設定はダキニ天伝承から採ったものであるが雪塚稲荷伝承では見られない。私の創作である。

 この白狐は川越から約30km離れた東松山の箭弓稲荷神に使えた稲荷神だそうである。このため物語でも「白狐は箭弓の忠実な部下」という点はそのままとした。

 大観光地川越にある妖怪伝説の割には知名度が相当低いので、この民話(妖怪伝説)を広めるために私は創作に至った。

生贄になった天邪鬼と瓜姫

 

序章

 

 人間が山の中で大声を出していた。その声を聴いて天邪鬼は呪文を唱えた後、その人間そっくりな声で返す。驚く人間に次におどろおどろしい声で「そなたは山の神を大事にするか?」と天邪鬼は聞く。人間は恐れおののいて山を駆け下りる。くすくす笑う天邪鬼の子たち。そう、北の大地では天邪鬼の別名は山彦。いたずらが大好きな鬼の子たちの日課であった。そんな鬼の子供に試練がやって来る。30年に一度生贄を差し出す日なのだ。谷から白羽の矢を打ち、屋根に刺さった5歳以上10歳未満の家の子を生贄として差し出す。その白羽の矢は自分の家に刺さっていた。泣き崩れる父と母。

 一方の人間の里にも生贄の儀式が行われていた。谷から打ち放った白羽の矢が刺さった5歳以上10歳未満の女の子を生贄に差し出す。生贄に決まった子は瓜の形をした箱に載せられ、川に流された上で清めの儀式を行う。その子は生贄と決まったから瓜姫と名を改める。父と母から引き離され神社の横の家での生活に変わる。

これは悲しい東北の物語。

 

第一章

 

 エトが長のワトの家に行く。そこで生贄の心構えと注意を聞くのだ。まず生贄になった者は親子から引き離されるということ、次に人間の瓜姫と出会い、生贄の儀式を行う場所まで連れて行く。そしてその瓜姫を殺し、心臓を祭壇に捧げ、生贄と決まった瓜姫を天邪鬼が食べ、皮を剥ぎ、大地に瓜姫の血を撒いた後瓜姫の皮を被ってから呪文を唱え自分が瓜姫に成り代わって人間の村に戻り、最後は人間の村にある祭壇で天邪鬼が生贄となってまずは心臓を捧げさらに血肉を大地に差し出すというものであった。生贄となった天邪鬼を殺す役は瓜姫を育てた父だという。人間の血肉と混ざった鬼の血肉がこの大地を豊かにし、生贄の旅は成功に終わる。これが生贄の旅の概要だった。

エトだってごくたまに親が仕留めた人間の肉を焼いて食べたことがある。だが余りの凄惨な殺し方にエトはすべてを聞き終えると吐瀉物を吐いた。耐えられなかったのだ。

 しかし、失敗するとこの大地に飢餓が襲い、鬼も人間も死滅するという。そして生贄の旅を失敗させようとする集団がいるというのだ。東北が強くなって京に反逆する事を恐れ、この儀式を失敗にさせようと生贄になった瓜姫や天邪鬼を殺しにやって来るのだという。暗殺者集団の名前は『鬼滅』という。

 「わかったかい?」

 淡々と語るワト。

 「逃げたら・・・僕が逃げたらどうなるの?」

 「分かっているだろう?そうなる前に君たちを始末するよ。監視の者がいるのでね。その時は監視者が代わりに君たちの心臓を祭壇に捧げることになる。ただし、効果は5分の1だ。限りなく失敗に近い」

 「それから合言葉だ。この合言葉で違う行為を行ったり、違う言葉を言う瓜姫は偽物と思って構わない」

 「その合言葉は?」

 うめきながら聞くエト。

 「『扉を開けてくれ』とそなたが言う。姫は『だめです。だれが来ても入れてはいけないと言われています』と答えるはずじゃ。そなたは『そこをなんとか』と言いながら指が入る程度の戸を開ける。姫は『だめです。』と答える。さらに『そこをなんとか』と言うのだ。その後そなたはゆっくり戸を開ける。その子が生贄の瓜姫じゃ。生贄の瓜姫は神社横の庵に住んでおる。機を織る音がするはずじゃ。生贄の姫の印がある布を織っているはず。時間に余裕があればそなたのものも作ってくれる」

 「それからこれが出立のお金と武器じゃ」

 「『被りの術』の呪文はこの巻物に書かれているものを旅の最中に覚えるのじゃ」

 渡されたのは2日分の宿代に短刀と巻物だった。

 「実は、武器もお金も自分で集めることがこの旅に課せられた試練の1つなのじゃ」

 「そんな」

 「分かってくれ。それから場所じゃ。場所は女川という場所になる。そこに瓜姫はいる。」

 遠かった。ここは栗駒山山麓である。歩いて5日はかかるかも。

 「瓜姫の生贄となる祭壇は和賀じゃ」

 「そしてそなたを捧げる祭壇がある場所は石巻じゃ」

 「最後、そなたは婚礼の衣装を着て大地と結ばれる。ただし、婚礼の儀式は省略できる。人間の親が希望すれば婚礼の儀式を行う事ができる。なにせ、お前は男だしの」

 「わかったよ・・・。わかったよ長老」

 泣き崩れるエト。

長老の家に泊まり、翌日エトは生贄の旅に出発した。

 長老はしばらくしてから山を登り谷に向かって黒い矢を放つ。屋根に黒い矢が刺さった。その屋根に住むものはエトの友人オルであった。いつも山彦でいたずらしていたエトの親友。翌日オルは長老の家に来た。その目には涙・・・。

「分かっておるな?」

「はい」

「今日からお前はオルではない。エトの生贄の旅が終わるまで『狐鬼』(こき)と名乗るのだ」

そういうと長老は白色の狐の面を渡す。狐の面の中央には赤い宝石が埋められている・・・

オルは狐の面を被った。すると己の貌にぴたりと付いた。さらに頭頂の角が体内に埋まり、声も変わった。面から全身の力がみなぎってくる。己の赤き皮膚の色が薄くなっていく。呪を唱えると掌に焔が生じた。まさに狐火だ。

「エトと瓜姫を監視してほしい。出来れば助けてほしい。」

「長老、承知しました」

その声はもう涙声ではなく北風の声に変っていた。掌にあった焔を消し、狐鬼は旅に出た。

 

第二章

 

 布で角を隠しながら旅に出るエト。本当に敵なんているのであろうか?

 街道を行くと通行人の懐から突然刃が光るのを見た。己に刃が向かっていく!思わずのけぞってかわすエト。周りの人間は全く刃に気が付いてない。

 急いで街道を抜けるエト。暗殺者は追ってこない。ただニヤニヤ笑っているだけだ・・・

 山道を行くとまたしても刃が飛んでくる。殺せ!の声が響く。エトは呪文を唱え、霧を発生させた。周りを見えなくする。

 -逃げろ、逃げるんだ!!

 エトは毎日必死に逃げて神社の軒下で夜露を凌いだ。恐怖からかろくに眠れなかった。

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 一方の瓜姫。瓜姫もまた生贄の概要を聞いていた。その恐怖とおぞましさに瓜姫は嘔吐する。神主が嘔吐物を処理する。

 「神主様、私は非力です。私では天邪鬼の足手まといになります」

 「大丈夫じゃ。ところでそなたは自分で自分を守る力を手に入れてみたくないか?」

 そういって差し出したのは黒に黒の色を塗りつぶした闇色の鬼面であった。だが鬼面の表情は怒りというよりも悲しみの方が強い。

 「まだ被る時ではない」

 「なぜ?」

 「この鬼面は人間が被ると一時的に鬼の力を得ることが出来る。己の心の中にある闇の力を引き出し、敵をなぎ倒すことが出来る。しかしこの面の力に頼りすぎると面が外れなくなり、やがて鬼と化す。その時点で生贄の旅は失敗だ」

 「そんな!」

 「このお面の額にある宝玉を見てごらん。この面に付けている宝玉が今は白のままだ。これが完全に黒になると付けた人間は面と一体化してそのまま黒鬼に成り果てる」

 「・・・」

 「このお面は暗殺者に命を狙われたときに使う最終手段なんだよ。まして生贄に選ばれた天邪鬼だって子供。強いとは限らない。それでも生贄の儀式が成功で終わることの方が多いのはこの鬼面の力おかげとも言ってよい」

 「お面が外しにくくなったり戦いの快楽に溺れたりする時が危険の合図だ。もうこの鬼面を被ってはいけない。その時はもう宝玉がかなり黒色に近い茶色に染まっているはずだ」

 「いい?最終手段の時だけに使うんだよ?」

 「もしも、私が鬼に成り果てたときは?」

 「その時は監視者が君を殺すことになっている。もっとも出来れば、の話だが」

 「安心して。このお面があるということは歴代の瓜姫は生贄の旅を成功しているんだよ」

 「あっ・・・」

 「それだけじゃない。面から経由して鬼の力を取り込んだ瓜姫の血肉を食った天邪鬼は強くなる。だから一緒に旅する天邪鬼の強力な味方でもあるんだよ」

 「それと重要な点がもう一点。この鬼面を鬼が被ると逆に鬼は鬼の力を吸い取られ命を失う。だから横着して自分じゃなくて天邪鬼に鬼面をかぶせたら絶対にだめだよ。その時点で生贄の旅は失敗だ」

 瓜姫は鬼面を見つめた。

 「このお面は呪いのお面なのね。でも私を守るお面でもあるのね?」

 「そう。要は使い方次第だ」

 「ところでそろそろ天邪鬼が来るころだ。私はこの家から離れるよ。」

 「万が一、暗殺者がこの家に来たときは鬼面を被って戦いなさい」

 「はい。和吉神主様」

 「いい返事だ」

 そういうと和吉は瓜姫にお金と短刀を渡した。

 「成功を祈る」

 そのお金は宿代2日分だけだった。

 「これだけ・・・」

 「すまない。宿代を稼ぐのも試練のうちなんだ」

 そういうと和吉は庵を後にした。瓜姫はその後、泣いた。

 

第三章

 

 翌日エトは女川にある村にたどり着いた。角を隠していた頭巾を外す。すると村人たちが鬼だと騒ぎ戸を閉める。悲しかった。やがて神社の横にある庵にたどり着いた。機織りの音がする。ここだ。ここに違いない。

 「扉を開けてくれ」

 -ちゃんと返事が来るかな?

「だめです。だれが来ても入れてはいけないと言われています。」

-合言葉の通りだ!

「そこをなんとか」

エトはそう言いながら指が入る程度の戸を開ける。

―鬼の爪って思ったほど伸びてないのね。人間みたい。指の色は赤色だから赤鬼ね。

「だめです」

と瓜子姫は答える。

「そこをなんとか」

―間違いない。この扉の向こうに瓜姫が!

エトは返事を聞くとゆっくり戸を開ける。なんとも可憐な少女だった。

「君が瓜姫だね?」

 「あなたが生贄の天邪鬼?」

 「そう、僕の名前はエト」

 「渡したいものがあるの」

 そう言うと御印が付いた布を渡した。

 「これは?」

 「生贄の祭壇で座るときに使うの」

 「ここじゃなんだからちょっと先の茶屋に行きましょう?」

 2人は瓜姫が生まれ育った女川を後にする。浦宿と言う宿場町に着いた。さっそく茶屋に入る。

 そこでエトは鬼面の話を聞いた。実物も見た。瓜姫は懐に鬼面をしまう。

 「僕、それ聞いて安心したよ」

 そういうといきなりエトは倒れ込む。

 「ちょっとエト君!?」

 ―医者を呼ぶことが出来ない。この子は鬼なのよ。また町の人が大騒ぎする!

 茶屋にお代をさらに払って茶屋の主人と一緒にエトを宿屋に運んだ。瓜姫はエトの角を頭巾で隠しながら宿に入った。幸い、どこか悪いわけではない。寝ている。しかし問題はここからだった。非力な自分だけでエトを守れるのか。ともあれ、男女同士で寝ることははばかれるので、瓜姫は別室で寝た。が、夜中に声がする。瓜姫ははっと覚めた。

 「町の人間の話からすると奴らはここだ。ここに違いない。裏口から入るぞ。始末しろ」

 絶体絶命のピンチだった。瓜姫は短刀を握る。

 ―やれやれ。世話がかかる2人だね。

 狐鬼が遠くから見つめていた。掌には炎が生じた。

 

第四章

 

 暗殺者が裏口から入ろうとしたその瞬間、暗殺者が炎に包まれた。町中に響く悲鳴。

 「騒ぐな。みっともない」

そういうと狐鬼が暗殺者の首を短刀で刺す。

 「逃げるのもみっともないよね」

 炎が逃げる3人を追尾し、3人は焼けただれる。

 狐鬼は仮面から喉を鳴らしながら1人ずつ業火で焼き殺した。始末すると狐鬼は裏口に袋を置いてこの街を後にした。

 瓜姫は裏口に置いてあった袋に驚愕する。お金と手紙があった。

 

 『このお金は稲荷大明神からの恵み。ありがたく受け取るがよい。瓜姫とエトへ 狐鬼(こき)』

 

 それは10日分の宿賃に相当するお金だった。

エトは1日ずっと寝込んでいた。翌日目が覚めた。瓜姫が歓ぶ。そしてエトも狐鬼が書いた手紙を読んだ。

 「監視者が僕たちを守ってくれた」

 「でも、狐鬼になるべく甘えないで祭壇に行きましょうね」

 「うん」

 午後に2人は宿を後にする。町から離れていく2人を確認する狐鬼。

 「その金はあちこちある稲荷神社の賽銭箱から盗んだものだから大事に使えよ」

 嬉しそうに狐鬼はつぶやいた。

―エト、がんばれよ

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 鬼滅の本部は京の都にある。宝玉から報告を聞く主。

 「情けない!お前らは何やってるのだ!」

 「申し訳ございません」

 「よい。陸前に居る陰陽師集を派遣する」

 「はっ」

  手をかざすと宝玉の光は消え、再び全てがぬばたの黒に包まれる。

 「京を甘くみたらあかんで」

 闇の中で主がつぶやいた。

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 和賀に向かうべく北上川を北上する。あたりの農村は飢餓で苦しんでいる。自分たちの旅がいかに重責なものかを痛感する。

 村に差し掛かった。

 「今日はここで泊まりましょう」

 そういった時だった。白の装束を着た者たちに囲まれた。

 「瓜姫と天邪鬼だな。ここで死んでもらう」

 一方2人の後を追っている狐鬼も白装束を着た者たちに囲まれた。

「鬼は退治しないとね?」

 狐鬼は焦った。助けに行けない!?

 

第五章

 

 「もはやこれ使うしかないね」

 そういうと瓜姫は鬼面を被った。すると声が全く変わった。それだけではなかった。素早く暗殺者に拳を入れ、蹴りを入れ、さらに暗殺者の腕を折り、剣を奪う。その剣で次々暗殺者を切り殺す。まるで舞いのごとき太刀筋で切り殺していく。目の前の敵は全て大地に倒れた。それだけではなく死体を細切れにする瓜姫。嬉しそうに切り刻む黒鬼が喉をならす。ふと黒鬼が顔を上げた。角から敵を感じ取った。

 「まだ敵は居る」

 うれしそうに言いながら山を駆け上がる瓜姫。

 一方の狐鬼。己の呪文が跳ね返されるどころか電撃を食らう。

 「終わりだ」

 「死んでもらう」

白装束の2人が嬉しそうに言いながら掌から電撃を走らせる。だが突然白装束の2人の腕や手足が飛ぶ。後ろに鬼面の女と天邪鬼の姿。

 ―エトはびっくりした。あの背丈。もしかしたら・・・

 ―いや、オルは僕と同じ天邪鬼だ。角が無い。よかった。オルじゃない。

 「お前が狐鬼だな?」

 「そうだ。おれを助けてくれてありがとう」

 「いいや、借りを返しただけだ。監視者よ」

 どす黒い声で瓜姫が言う。そして瓜姫が鬼面をゆっくりと外す。

 「ごめんなさいね。この鬼面を被ると性格まで変わってしまうらしいの」

 「あ、ありがとう」

 「あ、あの、一緒に旅しませんか?」

 「それは出来ない」

 「どうして!?」

 「万が一君たちが生贄の旅を放棄する事があったら俺が君たちを殺す。俺はそういう役目なんだ。一緒に旅したら情をかけるかもしれない。だから一緒には冒険できない。これは掟なんだ」

 そういうと、狐鬼は去っていく

 「どうして・・・」

 狐鬼は2人のいないところで面を外し、泣いた。面を外したことで角も生じる。

 「くそっ!こんな掟!!」

 地面を何度も叩きつける。オルは、狐鬼は慟哭した。だが立ち上がり再び面を付けた。そして小さな祠を見つけるとそこで夜を過ごした。

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 瓜姫と天邪鬼は宿に入った。明日にはもう和賀に着く。それは瓜姫にとって終わりを意味していた。

 「怖くないの?」

 「そんなの・・・怖いに決まっているじゃない」

 「私をちゃんと殺さなかったら狐鬼にも迷惑掛かるんだからね」

 「わかってるよ」

 「今日が私の最後の夜なんだね・・・」

 2人は無言のままやがて別室で寝た。

 エトは被りの術の呪文の文句を最終確認してから寝た。

 

第六章

 

 翌日、和賀にある生贄の祭壇にやって来た。心臓を載せる台。稲が植えられている小さな田んぼ。2人は確認する。間違いない。ここだ。瓜姫は敵から奪った刀を数本エトに渡す。そして瓜姫は着物を近くの柿の木に掛け、巻物が入った袋を置き、御印が描かれている布を敷いて座った。瓜姫は裸だ。

 「はい、これ鬼面」

 エトは無言で受け取る。鬼面に埋められた宝石の色はすでに茶色だ。

 「なるべく痛くないように首をすぱっと切ってね。」

 瓜姫の頬には涙。

 「一緒に旅ができてうれしい。ありがとう」

 「僕もだよ。ありがとう」

 別れの挨拶を終えると渡された鬼面を地面に置いてからエトは泣きながら刀を抜き、瓜姫の首をはねた。そして短刀で心臓を切り刻み、まずは祭壇に心臓を置く。次に己の衣服を脱ぐと瓜姫の皮膚を剥ぎ瓜姫の血肉を貪る。まずは腸を手で引きちぎって喰い、次に肝をゆっくりとゆっくりと味わいながら喰った。人間の肉はどこか甘みがあり美味であった。さらにエトは瓜姫の眼を手で刳り貫き食べることで瓜姫の眼力を得、さらに頭蓋骨を砕き、脳漿を飲み干すことで瓜姫の呪力を得た。腹がいっぱいになったところでエトはさっそく剥いだ皮を全て被って巻物に書いてある通りの呪文を唱えた。するとどんどん瓜姫に化けていく。角が埋まり、皮膚が瓜姫と同じ色になる。被りの術が成功した。さらに瓜姫だった血肉を田んぼに撒いた。するとなんということであろうか。田んぼの稲がぐんぐん伸びて大きな実がなっていく!!

心臓が光り、稲に光が当たると根も太くなっていく!

 生贄の旅は半分成功した。エトは最後に祭壇の引き出しを開けた。歴代の瓜姫の骸骨が見える。エトは瓜姫の亡骸を入れ、引き出しを閉めた。と、そんな時エトは近所でうめき声を聴く。

 一方、この生贄の儀式を狐鬼は一部始終見届けてしまった。生贄の儀式の最中に2人が無防備になる。この絶好の機会を相手が逃すはずがない。だが、幸いにも敵は来なかった。安心した途端思わずオルは狐の仮面を外して嘔吐する。オルは儀式の凄惨な光景に耐えきれなかった。

 ―しまった。エトにばれてしまう。

 間一髪で狐の面を被った狐鬼は自分の正体をエトに見破られずに済んだ。

 「見たな・・・?」

 裸のままの瓜姫の姿でにやりと笑うエト。嘔吐物にも目をやる。それを見ると三日月のようなゆがんだ笑みになったエトがいた。陰部以外全部瓜姫そっくりだ!

 「狐鬼よ、俺をしっかり監視しろよ。次は俺が死ぬ番だ」

―声はエトのまんまだ。

 エトは柿の木に吊るしてあった瓜姫の着物を着て鬼面を懐にしまい、短刀と刀を差した。完全に外見は人間の少女、瓜姫そのものだ。エトは己がかつて着ていた衣服を持ち、巻物が入った袋を持ち、祭壇を去った。

 生贄の祭壇を去るエトを見て狐鬼は呆然と立っていた。

 やがて村人たちがやって来る。

 「成功だ!!生贄の旅は半分成功したぞ!!」

 人間が歓喜する姿を見る狐鬼。

 「あとは蕎麦だけだ!」

 狐鬼は人間の声を聴くとその場を去った。

 ―人間はいつも身勝手だ

 

第七章

 

 エトは道中襲ってきた白装束の者を次々切り殺す。たしかに瓜姫の血肉を得たことで瓜姫が被っていた黒の鬼面の力をも得たようだ。宿に居ても敵の気配を感じ取ることができる。4日かけて女川に戻った。瓜姫の姿を見てまたしても町の人は逃げる。瓜姫の正体は鬼と分かっているからなのだろう。エトは瓜姫がいた庵の戸を叩く。誰もいないので近所の神主の家の戸を叩いたら神主が出て来た。声で瓜姫ではなく、天邪鬼のエトだと分かると庵の方でいろいろとエトは顛末を話した。鬼面も和吉に返した。鬼面に埋めこまれた宝石の色はいつのまにか白色になっていた。さらにエトは巻物が入った袋を取り出し、被りの術の呪文が書かれている巻物も手渡した。和吉は全ての持ち物を確認してこう言った。

 「最後の試練だな」

 「はい」

 「それでは瓜姫の両親に生贄が着たことを伝える」

 そういうと和吉は庵を後にした。しばらくして和吉が戻る。

 「しばらくの間、瓜姫の両親と暮らしてほしい。しばらくと言っても2~3日だ」

 「なぜ?」

 「相手が大地の婚礼の儀式を希望した」

 「そう・・・か」

 言われるままに瓜姫の家を案内されるエト。

 「おじゃま・・・します」

 「おじゃましますじゃないでしょ、ただいまでしょ」

 温かみのある声が帰って来た。

 「ぼくは・・・」

 「いいのよ、今だけにして」

 そういうと抱きしめられた。

 「おかえり・・・」

 両親の目には涙。それからいろいろもてなされた。瓜姫が生まれたときの話、どんな子供だったかを聞かされた。次の日、織機での織り方も教わった。最初はぎこちない音だったがだんだんと綺麗な音になった。

 「あなたの晴れ舞台、たとえ嘘だとわかっていても見たかったの」

 「明日、一緒に生贄の祭壇に行こうね」

 エトは涙をこぼした。

 一方そのころ狐鬼は村の外で敵を狐火で葬っていた。

「おまえらに邪魔はさせない!」

―友よ、あともう少しだな

 次の日、村人総出で婚姻の儀を行う。鏡を借りて婚礼の化粧をし、輿に載せられるエト。晴れやかな声を出しながら村人は生贄の祭壇を目指す。なんと祭壇の場所は最初に泊まった浦宿の近所ではないか。

 一行は石巻にある生贄の祭壇にやって来た。心臓を載せる台。蕎麦が植えられている小さな畑。エトは確認する。間違いない。ここだ。ここで俺は死ぬんだ。エトは裸になり生贄の御印がある布を敷いて布の上に座った。

 「みんなありがとう」

 エトはまた涙をこぼした。

 「ごめんね。北の大地ではこうするしかないの」

 「恨みっこなしだ」

 そういうと父が刀を振り下す。エトは絶命した。父はエトの心臓を抉り出し祭壇に置き、血を畑にまく。すると心臓が輝きだし蕎麦へ光を当てると蕎麦がぐんぐんと伸び、根の赤き色も増していった。

 「生贄の旅は成功したぞ~!」

 

 村人は歓喜した。父は歓喜の声を聴きながら祭壇の引き出しを開けた。天邪鬼らの骸骨が見えた。父はエトの亡骸を入れ、引き出しを閉めた。父はすべてを終えると遅れて歓喜の声を上げた。

 引き出しを閉める音を聞くと狐鬼はその場を後にした。

 狐鬼はしばらくして歩くと同じ狐面を被った男と出くわす。

 「忘れ物だ。受け取れ」

 受け取ったのは巻物。

 「お前が頑張ってくれたおかげで俺は第二の監視者にならなくてよかったぜ、狐鬼」

 「お前が長老になったら立派な鬼の村を作るんだぞ」

 「すまねえ」

 狐鬼を見送る狐面の男がそこにいた。

 

後日談

 

 狐鬼が栗駒山の村に戻る。村人が一斉に歓喜し抱き合って喜ぶ。そして長老の家に行くと狐面を外し長老に面を渡した。

 「オル、ただいま戻りました」

 長老はただオルを抱きしめる。

 「つらかったろう、つらかったろう」

 2人は抱き合って泣く。

 自分の両親の家に行くとオルが長老候補になったことをオルに伝える。オルは再び泣いた。

 こうして北の大地の悲しみの話は終わる。長老が成功譚として今回の冒険を書き記す。しかし、伝承は全く異なった形で伝わってしまい「瓜子姫と天邪鬼」という題名で後世に伝えられることになる。21世紀にこの伝承は栗駒山にある神社の下で巻物が発見され真・瓜子姫伝説として伝えられることとなった。なお、生贄の風習は奥州藤原氏の時代に厳禁としたことから消え失せた。

 元伝承

宮城県版「瓜子姫と天邪鬼」及び岩手県版「瓜子姫と天邪鬼」に基づく。

天邪鬼の復讐

 序章

 

 少年は逃げていた。なにもかもが嫌だった。天邪鬼は人間に雇われる形で暗殺や諜報活動に関わる。ゆえに王子と言えども暗殺や諜報活動に関わる。抜け出したものは「抜け忍」と言って王子と言えども始末される。しかしそんな血で汚れた毎日がもういやになった。鬼は津軽の国から逃げ、羽後の国仙北の地にやってきた。そして鬼は呪を唱えると人間に化けた。津軽の国の鬼の王子は南の国にて人間としてひっそりと暮らすことにした。

 これは秋田の地に伝わる悲劇の物語。王子の名はセト。

 

 第一章

 

 あれから5年が過ぎた。セトは仙北の地で暮らしている。この呪文は人間の血肉を己の体に入れない限り、鬼に戻れない。本来は人間に化けて偵察し、かつ本性を現すときは人間らを破滅に追い込むために使う術である。人間に化けているときでも鬼としての能力を失ったわけではなく力も保持している。セトは困った村人を怪力やこっそり使った呪術で助け、開拓していった。村人の信頼も得られた。しかし、人間と結ばれるという事は人間の血肉を得る事と一緒。ゆえに結婚はかたくなに拒んだ。そんなある日の事・・・。

 川で洗濯している最中に瓜にのせた子供が流れて行った。子捨てだった。常に飢餓で苦しむ北の大地では間引きが当たり前だった。瓜に載った子を拾った。名を瓜姫と名付けた。この地域では瓜に赤子を載せて流すという。このためこの地では瓜に載せた子を拾った場合は「瓜姫」と名付けるのだ。結婚できない身としてはわが子ができるというのは大変うれしいことであった。しかし、そんな幸せな日々は長くは続かなかった。噂を嗅ぎ付けた偵察隊が津軽の鬼が島に住む鬼の王に報告していたのだった。

 「あれはセト王子に違いねえ!角が無いだけで外見がそっくりだ!!」

 鬼の王ゴトは苦渋の決断を下した。

 「連れてこい。出来れば子もだ。」

 

 第二章

 

 セトは村の者である乳母に瓜姫を任せて瓜姫のために牛乳を買いに里へ行く。セトは乳母のアバに「悪い鬼がいるかもしれないから戸は開けるな」と言った。アバは「考えすぎですよ」と笑って見送った。とはいえ山賊なども居ることは事実。用心することにした。

 しばらくして「戸をあけておくれ」という声がした。アバは「どなたですか」と言っても「戸をあけておくれ」としか言わない。アバは黙っているとやがて声の主は「アバ戸を開けろ」と言って戸を叩く。

 -何で私の名前を知ってるの!?

 アバは家の中でじっと身を引く。

 「あくまで抵抗するのだな」

 そういうと戸を叩き割り中へ入った。

    アバは悲鳴を上げた。鬼だった。まさか人間ではなく本当に鬼が来るなんて!

 「この子が王子の子だな?連れて行け!アバお前もだ!」

 魔法の縄が赤子とアバを縛る。鬼たちは赤子とアバを背負い、さらに置き紙を置いた。

 セトが家に戻った時、愕然とした。家の中はめちゃくちゃだった。それだけではない。置き紙を見てさらに愕然とした。

 

 『お前の子と妻を取り戻したければ我らの鬼が島に戻って来い。戻って来ないのなら、こいつらを始末する』

 

 瓜姫も乳母のアバも直接の血のつながりはない。しかし、セトは決断した。鬼が島に行ってかつての仲間らや肉親である親と戦う決断を。セトは納屋にしまってあった刀を差す。この刀を見るのも5年ぶりだ。

 血は繋がっていなくとも瓜姫はわが子なのだ。取り戻せねば。

 

 第三章

 

 街道に出るセト。旅路の途中で竹林が突然揺れた。脚を踏む音。だが姿が見えない。相手は隠れ蓑を着ているのだ。やがて突然現れた縄にセトは縛られる。呪で縄を切ると今度は音のする空間に向かって風の呪を唱える。それは空気の刃となって相手を切り裂いた。

突如何もない空間から断末魔が響き、鬼が現れる。やはり相手は隠れ蓑を着ていた。刀を奪い、呪を唱える。それは電撃となって相手を攻撃した。そのまま拳を入れ気絶させる。敵の隠れ蓑を手に入れ己の身を隠した。さらにセトは鬼の腹を割き臓物を急いで皮袋に入れる。

 事が済むとそのまま逃げるセト。セトを殺すべく呪や縄が飛んでくる。セトはこれらの攻撃をかわしながら秋田の大地を駆け抜け、その場をしのいだ。

 白神は別の鬼族が住んでいる。彼らを敵にしないよう、そっと抜ける。もう津軽の国だ。やがて大戸と呼ばれる岬に出た。ここが己の故郷。そしてこの岬の島に鬼が島はある。

 岬を見ていると突然後ろから金棒を振り下す音が聞こえた。脚をやられた!

 そして2人目の鬼が木刀を振り下す。セトの記憶はここで途絶えた。

 気が付くと、王宮にいた。懐かしい光景だ。ここで幼少期を過ごしたのだ。ここは鬼が島の地下。そして玉座があるとこ。地上の玉座は敵をだますための仮の玉座でしかない。そしてその玉座の真下に隠してある階段が王宮の本当の入り口なのだ。ということは・・・。

 「いつまでその姿でいるつもりだ、我が息子よ」

 「奴に血を飲ませるのだ。人間を連れてこい」

 そういって連れてこられたのはアバだった。アバの手首を切る鬼たち。鬼たちは器にアバの血を集めて5人がかりでセトに血を飲ませる。

 例の変化はすぐに起きた。皮膚が真っ赤になって筋肉がもりあがる。頭頂に角が生え、牙が伸びる。これがセトの正体。アバがさらに悲鳴を上げる。

 「人間よ、これが奴の正体じゃ」

 「わが息子よ、天邪鬼一族は人間たちの国々へ諜報活動する代わりに人間に生かされているという事を忘れたか!」

 「『抜け忍』は抹殺という掟も忘れてはいまいな?」

 「せめて本当の姿で殺してやる。情けだと思え」

 「わが子は・・・瓜姫は・・・?」

 「安心しろ。別室で寝てるわ。人間は奴隷とする」

 「そうか。それはよかった」

 そういうとセトは皮袋から取り出した干からびた血肉を口に入れた。するとセトの五体が骨音を立てながら大きくなり衣服は千切れ飛び、口はさらに裂け、牙がさらに伸びた。セトは天井の岩を壊しながら時折口から長い舌を出し、ふしゅう、ふしゅると嬉しそうに音を立てる。

 「お前、同族の血肉を食ったのか!?」

 セトは己の命を手に掛けようとした鬼を拳で壁に叩きつけ絶命させ、さらにもう一人の鬼を握りつぶす。果物が割れるような音が木霊する。

 ゴトは敵に向かって刀を振り下す。しかし致命傷には至らない。そして巨大な足がゴトに迫る。間もなく肉が飛び散る音がした。

 「奇襲だ~!裏切り者が禁忌の技を使ったぞ!」

 鬼が島で悲鳴と怒号と歓喜の声が響き渡る。

 「アメ、ここに隠れて!!」

 娘のアメを岩でできた玄室に隠す。さらに人質である人間の赤子も別の玄室に隠した。

 そのままオメが特攻する。しかし巨大化した実の息子にかなうわけがなかった。拳を叩きつけられ絶命する。

 セトはそのまま鬼が島じゅうの鬼を惨殺して回った。セトはさらに口から炎を吐く。炎で焼けただれて死ぬ鬼たち。死んだ鬼の血肉を咀嚼してさらに己の体からめきめきと音を立て強くなる。刀の傷も消えて行った。

セトは首をゆっくりとめぐらせると鬼の赤子を見つけた。セトは歪んだ笑みを浮かべならが近づき、炎を吐いて赤子を殺した。次に隠れている鬼を見つけると拳で叩き割ってから鬼を引きずり出し、踏みつぶした。

セトが殺した鬼には肉親もかつての親友もいた。しかし抹殺される運命だった己の身を救うにはセトは禁忌の手段を使うしかなかった。同族殺しはそれだけでも抹殺されるが抜け忍をした時点で既に死罪。どのみち関係なかった。

 やがて鬼が島から鬼の気配が消えた。セトは己が作った穴から再び地下に戻り壊れた玉座の前に戻った。壊れた玉座の横で震えながら座り込んでいるアバがいた。アバは手から血を流し続けもう助かる見込みがない。

 「天邪鬼は同族の血肉を食らい続けるとやがてだいだらぼっちに化けることが出来る」

 嬉しそうにふしゅう、ふしゅると音を立てながらアバに言い聞かせるセト。

 「しかも、同族の血肉を食らうと最悪理性を失いだいだらぼっちの姿のままで暴れ回るが我セトは幸いにもそのようなことにならなかった。天は我に味方した。」

 「ところでアバよ、我は再び人間らが住む村で平凡な暮らしを望む。もう修羅の生はまっぴらなのだ」

 「そのためには、人間の中で暮らすには我が鬼であることを人間に知られては困る。言ってることがわかるな?アバ」

 アバは震えて何も答えられない。

 「安心するがよい。消えゆく命は我がもらう。人間の血肉は鬼の力をさらに強大に出来るからの」

 そういうとアバに向かって拳を振り下した。肉が砕け散った。そのまま肉をほおばるセト。

 セトは事を終えると瓜姫を探す。やがて赤子の鳴き声がする場所にたどり着いた。セトはそっと指でそっと玄室を壊した。玄室の中に瓜姫が居た。

 次にセトは呪を唱えた。人間に化ける呪文だ。もう一回人間の血肉を手に入れないと元の姿に戻れないあの呪文。セトの巨体の周りが渦巻き、やがてセトは骨音を立てながら小さくなった。こうしてセトは再び人間の時の姿に戻った。

 泣く赤子を抱くセト。

 「ふふふ、くくく、くくくく」

セトは瓜姫を抱きながら何度も笑い続けた。その姿を岩の割れ目から見続けている者が居た。セトは身を隠している鬼に気が付かないまま衣服を探し、やがて衣服を見つけると次に万が一の時の為に鬼の血肉を皮袋に入れ、隠れ蓑を着こみ、瓜姫を背負い鬼が島を飛び去った。

 数刻たったのち、風音以外の音が無くなった鬼が島で岩から音がする。身を隠していたアメだった。

 アメは鬼が島で生きている者を探した。だが無残にも赤子を含めて抹殺されていた。生き残ったのは自分だけだった。やがてアメは自分の父親の亡骸がある壊れた玉座の前に立つ。肉がつぶれていて当然顔も無くなっていた。

アメの背中が小刻みに揺れる。

 「ふふふ、くくく、くくくく」

 アメはなぜか宿敵と同じ笑いがこみあげて来た。自分は泣きたいはずなのになぜか笑いが止まらない。

 ―瓜姫とセトを殺す

 凄惨な笑みを浮かべながら笑うアメ。だが、アメの表情を知る者はここには誰も居ない。この時アメはまだ8歳だった。

 

 第四章

 

 セトは羽後の国仙北の村に戻った。アバは鬼が島で亡くなったと伝えた。しかし、自分は津軽の国の鬼が島で鬼退治をしたことも村人に伝えた。セトは勇者とたたえられた。本当の事はとても「口が裂けても」言えないが・・・

セトに待っていたものは平穏な日々だった。やがて8年が過ぎ瓜姫は成長する。瓜姫は機織りをするようになった。織物の質は上出来で暮らしに困ることは無かった。何もない日々。セトと瓜姫は幸せだった。

セトは「怖い鬼が出るかもしれないから瓜子姫は俺の留守の中だけ戸を開けるな」と言った。いつ残党がここを襲うか分からなかったからだ。瓜姫は父の言いつけを守っていた。

 一方のアメは偵察で外に居て命拾いした5人の鬼らと共に鬼が島を再建する。再建の傍ら、アメは武芸に励む。呪術習得もである。そして8年が過ぎた。アメは16歳になっていた。そしていよいよ敵討ちへ旅立つ。周りの鬼たちが泣きながら旅立を見送る。周りの鬼には死出の旅に見えた。だいだらぼっちになれる天邪鬼に勝てる見込みなどとても見えなかったからだ。だから8年間も何もできずにいた。しかしアメには秘策があった。

 アメは隠れ蓑の呪力で空を飛び宿敵が住んでいる村の家にたどり着く。瓜姫がいるのであろう。さっそく隠れ蓑を脱ぎ、地面に置くアメ。

―まずは瓜姫からだ。

 「瓜姫や遊ばないかい?」と戸を叩きながら声をかける

 瓜姫は戸の向こうで「見ず知らずの者と遊ぶのは」・・・と断った。その時アメは呪術を唱える。催眠術だった。

 「いいわ、遊びましょう。」

 戸から出てきたのは可憐な少女だった。アメは瓜姫を柿がなっている木に連れて行く。その時呪を唱え、瓜姫を縛り上げた。瓜姫の悲鳴が山に木霊する。そのまま呪文で柿の木につるし上げ催眠術を解く。瓜姫が見たのは長身の女の鬼であった。さらに瓜姫は悲鳴を上げる。悲鳴の声を堪能したアメは瓜姫の着物を全て剥いだ。

 「お前がわが天邪鬼一族を惨殺したセトの里子、瓜姫か。我らの恨み、思い知れ!」

 そういうと縄を切った。鈍い音と悲鳴が木霊する。そしてアメは隠し持っていた短刀で瓜姫を絶命させた。さらに短刀で瓜姫の皮を剥ぎ瓜姫の臓物を食べる。剥いだ皮をアメは被りそのまま呪文を唱えた。すると見る見る食した人間と同じ姿になっていく。骨音を鳴らしながら身長は小さくなり角が消え赤色の皮膚が消え牙も消える。アメは本当に瓜姫の姿になったか確かめるべく水面を探す。水面に映った姿は瓜姫そのものだった。さらに肉の塊となった瓜姫の血肉を皮袋に入れる。最後に瓜姫が着ていた着物を来た。

「今日は味噌汁でごちそうだ」

 そういいながらアメは瓜姫の姿のままセトの家に入っていく。アメは瓜姫の肉を細かく包丁で切り刻み、鍋の中に入れた。骨は板場の下に捨てた。セトが宵に戻って来る。アメはセトにばれぬよう己の声をなるべく出さぬよう細心の注意を払う。そして夕食の時間になった。

「うまい。うんめえ」

汁を飲むセト。だが2杯目でセトの顔つきが変わった。

「瓜姫・・・なにをした・・・」

 セトは椀を落とし汁が飛び散る。突然セトの皮膚が真っ赤になって筋肉がもりあがる。頭頂に角が生え、牙が伸びる。アメは鬼になりかけている無防備な状態をこの時とばかりに懐にしまってあった小さな毒の矢を突き刺す。悲鳴をあげるセト。

 「板場の下を見るがよい。お前の大事なものが転がってるぞ」

 飛び散った汁のせいで被った皮が溶けて赤い皮膚が見えていたがおかまいなしに嬉しそうに言うアメ。

 「貴様、瓜姫ではないな!?」

 セトは反撃しようとしたが体が動かない。

 「父と母と一族の敵!」

 そういうとアメは短刀で何度も何度もセトを突き刺す。最後にセトの首をあげた。本懐を遂げたのだ。

「ふふふ、くくく、くくくく、あ~はっはっはっ!」

   アメは天を仰ぎながら血の海となった家の中で笑い続けた。笑い終えるとさっそく呪文を唱えた。骨音をならしながら五体が大きくなり、被った皮膚は散り散りになり元の赤き皮膚を露わにしながら筋肉が盛り上がる。変化を終え元の姿に戻ったアメは首を持ち、死体を見下して会心の笑みを浮かべた後、返り血をぬぐい、家にあった衣服を奪って家を出た。アメは昼間に山のふもとに置いた隠れ蓑を再び着て、首を持つと津軽の国の鬼が島に向かって飛び立った。

 

終章

 

 アメは鬼が島に戻り首を玉座の後ろにある壁の穴に飾った。そのあとアメは正式に鬼が島の女王となった。女王になる式を終えた後、両親の墓の前で報告し、泣き崩れる。

 「おとうさん、おかあさん、私やったよ」

 その後アメは事の顛末を書き記した。そして2つの物語が誕生した。1つは「トトとアバ」、もうひとつは「瓜姫と天邪鬼」である。元の伝承と改変した伝承を書き写し、改変した伝承を各地で偵察部隊の鬼が伝えた。

 元の伝承であった書物が見つかったのははるか1000年も後の事で世は平成となっていた。伝承を記した巻物は廃寺で見つかった。

一方、村人たちは惨殺されたセトの姿を見つけた。村人はこの鬼に哀れと感謝の意味を込めて鬼首無神社を作り、祭ったという。

 

 

 

元伝承

 

『トトとアバの間に赤坊がうまれる。或る日、トトは乳を買いに町へ出かけた。その間に鬼がやつて来て「アバ戸を開けろ」と戸を叩く。アバは黙つていたら鬼は戸を壊して中に入つてきた。鬼は床の中の赤坊を箱に入れて縄で杉の木に吊し、アバを山のカヤの刈かぶの上を曳きずり、鬼ガ島まで連れて行く。トトが帰つて来てやつと赤坊が見つかつたが、アバの姿が見えず、泣きだしてしまう。赤坊を隅にかくしたトトはアバを探して山に行き、血の跡だどつて鬼ガ島に出る。鬼はトトを見つけて、後を追いかけて来る。村境で捕まつたトトは赤鬼・青鬼達から舟にのせられ、鬼ガ島に連れて来られる。そこでアバの血を飲まされ、トトは逆に鬼共を退治して戻ってくる』

 

 堀内正文「秋田県の昔話―仙北郡外小友村」『日本民俗学』3(1)号 実業之日本社 1955年 p.109『トトとアバ』より

天邪鬼の恩返し

序章

 

 偵察を見破られた。隠れ蓑で姿を隠し、飛行をしていた。敗走だった。鬼として屈辱だった。傷が深いのか飛ぶ力もなくなり、やがて低空飛行となり、さらに空から落ちた。脚をくじいた。

 ―俺はここで死ぬんだ。

隠れ蓑はずたずたに破れ、己の姿を現した。赤鬼の少年だった。そんなとき、1人の娘が駆け寄ってきた。

「大丈夫ですか!」

 人の子らしい。警戒した。鬼として成敗されるのではないかと。でも違った。

「今、包帯巻きます。待ってて」

 そういって家に戻って包帯を持って来る。

 「いいのか、俺は鬼なんだぞ。人間に害するかもしれん」

でも黙って包帯を巻く少女

 「ありがとう」

 「君の名は?」

 「私の名前は瓜姫」

 「僕は天邪鬼のトト」

 

第一章

 

 瓜姫の家にやってきた。家には誰もいない。ほそぼそとした畑、それに織り機があった。家の中をまざまざと見つめる鬼。

 「私ね、織物でご飯食べてるんだ」

 「そうなんだ。お父さんとお母さんは?」

 「死んじゃった。病で」

 そういうと位牌を指差した

 「お父さんのための織物もお母さんのための織物も作っているんだよ」

 「つらくない?」

 「つらいし、さびしいし、友達もいない」

 「何で?」

 「私、瓜から生まれたらしいの」

 「えっ?」

「本当かどうかわからないわ。でも子供と両親が全員死んだんで、おじいちゃんとおばあちゃんが近所の第六天神社に祭られている第六天魔王に祈ったら畑から突然現れた瓜から生まれたって言われたわ。ゆえに、私は魔の子として忌み嫌われてるわ」

 ―それは蘇生の術を使ったのでは・・・だとすると、この子は・・・

 「よくそれで織物売れるね」

 「うん、この織物魔力があるからね。私瓜から生まれた時から織物に魔力を込められるらしいの」

 「ほら、だんだん傷が癒えて来るでしょ?」

 「あっ、本当だ・・・」

 傷がどんどんふさがっていく。

 「すごい、ありがと」

 「いいえ、どうもいたしまして」

 「ねえ、君、おじいちゃんとおばあちゃんに会いたい?」

 「えっ?」

 「僕の鬼の主に頼めば、もしかしたら・・・できるかも」

 「ええっ」

 「君のおじいちゃんとおばあちゃんが使ってた草履とかあるかな?」

 「あるわ」

 「それ使って草履に宿ってる念を引き出して、瓜に命を宿して復活させる」

 「ええっ!」

「しかも生き返ったとしてもおじいちゃん、おばあちゃんとして生き返るから寿命はそんなに長くないよ。」

 「さらに鬼が島に行くんだよ?人間じゃ怖いんじゃない?」

 瓜姫は黙った。

 「でも私も、魔物みたいなものだしいいわ。連れてって鬼が島」

 「本当にいいの?」

 「かまわない」

 「僕が回復したら君をおぶって空飛んで行くけど大丈夫?」

 瓜姫はさらに黙った。

 ようやく口開いた。

 「私、おじいちゃんとおばあちゃんと暮らした日々、本当に幸せだった。あのころに戻りたい。行くわ、鬼が島に」

 「わかった」

 「僕の怪我が治ったら隠れ蓑着て行くね」

 

第二章

 

 数日後怪我が治った。さっそく壁にかけてある隠れ蓑を着るトト。隠れ蓑も数日のうちに修復した。

 「隠れ蓑を着ると、僕の姿は人間には見えない。だからこうやって草履を持つと」

 「君のおじいちゃんの草履がまるで浮かぶように見えるかい?」

 「み、見えるわ!!すごい!」

 トトが隠れ蓑を外す。再びトトが見えるようになった。

 「天邪鬼って全員じゃないけどけっこうこうやって姿隠して行動するんだよ」

 「帰りは君にも隠れ蓑貸すね。実はこれ空を飛ぶこともできる道具なんだ」

 「ありがと」

 「じゃあ君のおじいちゃんとおばあちゃんの草履持って」

 そういうと草履を懐にしまってもう一回隠れ蓑を着て姿を隠した。

 「行くぞ!」

 「はい!」

 そういうと瓜姫をおぶった。傍目から見るとまるで瓜姫が浮かんでいるかのようだ。

 空を飛ぶトトと瓜姫。

 「すごい!すごい!」

 はしゃぐ瓜姫。

 トトと瓜姫は羽後(秋田)の山々を通り越し反対側の海辺の島に着いた

 一見、何の変哲もない島だ。

 でもトトが持っている魔法の石が光ると透明な壁に穴が開いた

 トトは透明な穴を潜り抜ける。

 そして島に降り立った。

 「ここは陸中(岩手)の鬼が島だよ。」

 さっそく隠れ蓑を外し巨大な岩に向かう。そこは鬼たちが住んでいた。

 「トト、大丈夫か?連絡が付かなくて心配だったんだぞ。その人間は?」

 「この瓜姫に助けられた」

 「そうか、人間。俺たちを助けてくれたのか」

 「この瓜姫に恩を返したくて」

 「そうか。俺の名はキト。同じ天邪鬼だ。」

 「さっそく、転移場所に案内しよう。転移石を彼女に持たせて」

 そういうと転移石を瓜姫に持たせた。

 「それとキト、実はな・・・」

 「分かった。伝えておくよ」

 「瓜姫、この鬼が島はかりそめの姿。天邪鬼の大部分は地下世界に住んでいる」

 「ええっ!」

 「大丈夫だ。地獄に行くんじゃない。それどころか人間が住む町よりもきらびやかだぞ」

 そういうと城に案内され、転移場所に着く。

 呪文を唱えると、やがて空間がゆがんで見えるようになった

 「こわかったら目をつぶっていいんだよ。すぐに終わる」

 転移した場所には門番がいた。

 「トトお疲れ。その人間の子は?」

 「もちろん、長に見せるよ」

 そういって門を出た。

 そこは本当にきらびやかな地底都市だった

 「どう?驚いた?」

 「鬼楽城(きらくじょう)にようこそ」

 

第三章

 

 見たことない世界だった。まるでお城のような家が立ち並ぶ中にお堀があって、城がある。行きかう人々。みんな鬼だ。いろんなものを売っていた。それどころか明らかに天井が見えているのに小さな太陽が浮かんでいたのだ。

 「ああ、あれは夜になると月になるよ。地上と違って星々は見えないけど」

 「すごい」

 「食料だけは地上から運んでいるんだ」

 「ぼくらは人間に迫害されて、それで地下世界に住んでいる。鬼が島も万が一壊滅させられたら別の島に鬼が島を再建するために作られたものなんだよ」

「へえ・・・」

 にぎやかな中央通りを通る。人間を怖がる鬼や警戒する鬼が多数いた。

 やがて地下世界の中央にある城に到着した。門番に言う。

 「重要人物である人間を連れてきた。王に接見を願いたい」

 「あい、わかった。」

 王城に入るとまるで竜宮城のようだった。

 「す、すごい」

 まるで迷路のようだ。

 「こちらでございます」

 いろんな部屋がある。宮廷に暮らす人たちの部屋だ。

 「こちらが謁見室の準備室になります。ここで武器を預かります。隠れ蓑も預かります。」

トトが短剣と隠れ蓑を渡す。

 「人間の御嬢さん、武器はお持ちでないですか?」

 「ないわ」

   「それとテト、実はな・・・」

 「承知しました。」

 「では私テトがヤト王の玉座までご案内します」

 玉座がある謁見室に案内された。鬼の王と言うから巨大な体に金棒を持っているものと思った。でも違った。典雅な長身。長髪にとがった耳。なんとも美しい姿であった。

跪くトト

 「トト、このたびの偵察まことにご苦労であった。話は聞いた。その子がトトの命を救ったのだな?」

 「はい」

 「この子が瓜姫でございます」

 「この瓜姫に恩返ししたいと思います」

 「祖父と祖母を生き返したいのだな?」

 「はい」

 そういうと持ってきた草履に向かって呪文を唱えた。すると草履がみるみる小さくなり、やがて種となった。

 「この種を瓜に植えるのだ」

 「ところで瓜姫。おそらくだが、そなたもこの方法で生き返っているはずだ」

 「ええ!」

 ―でも、やっぱり

 「我は昔偵察した地域の人間に助けられている。その時の夫婦の願いは病で死んだ孫の復活だ。我はその望みをかなえた」

 「私は第六天魔王によって生き返ったのではない?」

 「それは後付だよ。本当は違う」

 「私は君を生き返らせてよかったと思っているよ」

 「本当は死者を生き返らせるというのは禁断の術だからね」

 「よっぽどのことが無いと、閻魔の許可が得られない」

 衝撃だった。

 「命を救った以上は恩を返したい。」

 「王様、ありがとうございます。」

 「この種を植えれば2日ほどで大きくなる。その瓜から人間が生まれる」

 「トト、ほかにもいう事があるのでは」

 「はい」

 「楽にしていいぞ。立ちなさい」

「はい」

 「実はおいら・・・君の事が・・・好きだ」

 ただでさえ赤いのに真っ赤になるトト

 「えっ!?」

 「生き返らせるもう一つの条件はトトと結ばれることじゃ」

 「人と鬼の結びは困難かもしれぬ。でも、だからこそ本来は秘密の王城や地下都市へ案内許可を出した」

 「もしできぬというのなら瓜姫の記憶をここに来た部分のみ消して地上に戻させる」

 「えっ・・・」

 「急ぐ必要はない。しばらくトトと暮らしてみて、結論を出してほしい」

 「瓜姫、ぼくと一緒になるの、嫌かい?」

 「トトよ、もう親の家に帰る必要もなかろう。しばらく王城で暮らせ。親には近衛兵テトが伝える」

 「結ばれたときの合言葉は『開けておくれ』『だめです鬼は入れるなと言われております』じゃ。真逆の言葉かもしれぬが我々は天邪鬼だからの」

ふっと笑うヤト

 「瓜姫の家に帰った時にトトに言うがよい。それが人間界で暮らす最後の言葉になる」

 「瓜姫、どうする」

 長らくの沈黙の後瓜姫はこういった

 「しばらく様子見たいです」

 「よくぞいった」

 

第四章

 

 宮廷に住む生活が始まった。なにもかもが新鮮だった。妖術を使った映写会、珍しい宝飾品の数々。隠れ蓑を瓜姫はもらった。トトと一緒に鬼が島から空を飛んだ。トトは人間になりすまして人間に物を売って、代わりに食料品を買う。

 都城では浮かぶ日が月に替わる場面も見た。何もかも不思議だった。

 蓑のおかげで山頂も自在に降り立つことができる。2人が見た光景は絶景だった。雲海を見下ろすこともできた。

 それでも心が決まらない。

 1月が過ぎた。ヤト王の前に2人は来た。

「私・・・決められないんです」

 「僕の事嫌いなの?」

 「そうじゃなくて・・・あまりにも驚きの連続で」

 ―黙る2人

 「とりあえず夫婦を生き返らせよう。そのうえで瓜姫に決めさせよう」

 なんと記憶を保ったまま都城を出る許可が出た。

 2人は隠れ蓑を着て飛翔し、秋田の地に帰る。

 そして王からもらった種を瓜に埋めた。

 「3日後には決めてほしい。でももしダメだったときは・・・」

 「君の記憶は消してもらうよ・・・」

 「分かってる」

 「いったん僕は鬼楽城に帰るから。それと隠れ蓑は預かるね。」

 2日経った。どんどん大きくなる2つの瓜。巨大な瓜だ。やがて2つの瓜から裂け目が走り瓜から血が飛び出して瓜が割ける。そして、2つの瓜から出てきた大の大人が2人産声を上げた。2人は血だらけだ。

 「ここは・・・」

 「私たちは・・・死んだはずでは・・・」

 「おじいちゃん、おばあちゃん・・・!」

 ただ抱いて泣く3人がそこにはいた。

 3人はひさしぶりに夕食を食べた。

 翌日、いつも通り祖父は山へ芝刈りに、母は洗濯のため川へ出かけた。

 私は・・・

 瓜姫は決意した。

 置き紙を書く瓜姫。

 そして来訪者はやって来た。

 「ここを開けておくれ」

 その返事は・・・

「だめです鬼は入れるなと言われております」

 言いながらゆっくりゆっくりと扉を開ける

 扉を少しずつ開けるたびにトトと旅した記憶が蘇る。

 そして扉が開いた

 「おいら、うれしい」

 泣き崩れるトト

 「一緒に行こう、鬼が島へ。はい、これ瓜姫の隠れ蓑」

 「はい!」

 こうして2人は新しい生活に旅立った。

 夕方2人は家に帰って来た。

 2人は置き紙を何度も読み、なぜ自分たちが生き返ったのか、そしてその代償とはなんなのかを知り、何度も泣きながら手紙を何度も読み返した。

2人は鬼楽城で盛大な挙式をあげ、仲良く暮らしたそうな。

 

 

元伝承

 

『ひとり娘のところの畠に、どこからか鬼が落ちてくる。娘が鬼の足に繃帯を巻いてやる。近所の人は皆怖がつて傍に寄れない。鬼は「おれの家さ一晩泊つてけろ」といつて娘をもてなす。帰り際に娘は鬼からコズッケをもらい、家にかえつてからカボチャを叩くとサクと割れ、中からヂンヂとバンバが出て来て三人で仲良く暮した。』

 

 堀内正文「秋田県の昔話―仙北郡外小友村」『日本民俗学』3(1)号 実業之日本社 1955年 pp.110-111『畠に落ちた鬼』より